玉城デニー知事は7日、沖縄の日本復帰50年を迎えるのを前に「平和で豊かな沖縄の実現に向けた新たな建議書」を公表した。復帰前の1971年に琉球政府の屋良朝苗主席(当時)が日本政府に示した「復帰措置に関する建議書」(屋良建議書)を踏まえて、50年が経過しても変わらない現状を確かめつつ、今後目指すべき沖縄像を提示した。「平和で豊かな沖縄」実現の道しるべになるか。県と政府がどのように「新たな建議書」を生かすかが問われる。
玉城デニー知事が7日に発表した「平和で豊かな沖縄の実現に向けた新たな建議書」は、県民意見を幅広く募り、大学教授ら有識者からの意見を取りまとめる形で決定した。「幅広い分野の意見が、総じて県民のそれぞれの思いにつながる」(玉城知事)と意義を強調する。ただ、基地の負担軽減と沖縄の将来像に対する理念的な記述が並立したことで、県議会の与野党双方から「総花的」との指摘も上がる。
知事周辺は当初、4月30日に与党が中心となって開いた「県民大会」を追い風に「建議書」への関心や機運醸成を図る構えを見せていた。しかし、新型コロナウイルスの感染者が高止まりする中で、規模縮小とオンライン開催が決定し、効果は限定的となった。
■蚊帳の外
建議書を巡り、県は2~3月にかけて県民意見を募集し、533人から寄せられたという。さらに、有識者を招いた会議も4回開催した上で、庁内で文言を練り上げていった。ただ、県は7日の知事による記者会見前に与党への説明会を開いたものの、多くの与党県議に説明会の日程が伝えられたのは6日夕方だった。沖縄の不条理を突きつける上で「建議書の意義は大きい」(与党県議)との意見もあるが、「蚊帳の外に置かれた」という不満も与党内でくすぶる。
ある与党県議は「『県民大会』もオンラインとなって、規模が縮小された。『建議書』に対する世論の追い風を得たとは言いがたい。それにもかかわらず、与党とも文案をたたかないで、どうして県民の意思を発信したと言えるだろうか」と疑問符を付けた。
一方、自民側は9月の知事選まで半年を切る中で、知事の発信に警戒感を漂わせていた。だが「建議書」に目を通した県連幹部の一人は「最大公約数を取ったような文書だ。ありがたいが、政府への追及も弱く、もっと玉城知事らしさを出した方が良かったのでは」と余裕の表情を浮かべた。「全てを網羅しており、行政文書としては100点満点」とも皮肉った。
■県側の配慮
4月22日、県内41市町村の首長らが顔をそろえ、那覇市で開かれた沖縄振興拡大会議。中山義隆石垣市長は県が建議書を作成していることを念頭に「政府を批判するような文言が入ってしまうと、せっかくのお祝いの式典なのに『沖縄はこんな時に何を言ってるんだ』と他都道府県から批判の対象となる」とけん制した。5月15日に政府と共催する復帰記念式典の当日に、政府を批判する建議書の発表を断念するよう迫った形となった。
玉城知事は「承っておく」と述べるにとどめたが、県幹部によると、その時点で建議書の手交を式典前とすることが決定していた。玉城知事は式典当日、基地問題を前面に出さない「宣言」か「式辞」を出す方針だ。
与党幹部は「当日に公表すると、政府とガチガチにぶつかる」と説明。県幹部の一人も「建議書の手交は常識的な対応となる」と述べ、政府への配慮をにじませた。
(池田哲平、大嶺雅俊、梅田正覚)