辺野古は米側理想の地 目標達成へパッケージに <虚妄の日米交渉-沖縄返還半生記>下


社会
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記者会見を終え、笑顔で握手するクリントン米大統領(左)と橋本竜太郎首相=1996年4月17日、東京・元赤坂の迎賓館

 沖縄返還において積み残された最大のテーマ、それは辺野古の問題である。この問題はいまなお解決のメドさえ立っていない。日本国内各地にもこの「辺野古を考える」会が設置され、現地応援の声が上がっているほどである。

 かつて安倍晋三内閣は口ぐせのようにこう強調していた。「世界で最も危険な普天間基地の固定化は許されない。辺野古への移転以外に選択肢などない」。これについては重大な二つの疑問がある。一つはなぜ移転先は辺野古でなければならなかったのか。他の一つは同じ県内での移転ということになると、政府のいう沖縄の基地負担の軽減にならないのではないか、ということである。しかし、これには深刻な事情が隠されている。

 実をいえば辺野古は、米側にとって半世紀を超える念願の理想の地であるということ。それに辺野古への移転は沖縄の海兵隊のグアムへの移転をもたらすという、逆説的ともいえる効果を生むということだ。

不確実性

 1996年4月17日に「日米安保共同宣言」なるものが発表された。宣言の骨子はアジア・太平洋地域には朝鮮半島情勢など「不安定の弧」ともいえる不確実性が存在する。日米安保体制はこの地域の安定と繁栄のための基礎であり、日米両国は緊密な防衛協力と米国による抑止力の維持に努めねばならない―というものであった。

 この安保共同宣言の直前に、普天間基地が“危険な基地”として移転されることに、その移転先に辺野古が決まった。この辺野古こそ、米軍が1972年の沖縄返還以前から待ち望んでいた最適の地であり、ほんとうのところはこの辺野古に巨大な新基地を造るために普天間の移転が決められたともいえるのだ。この辺野古への移転が米軍再編報告書の発表と併せて発表されたところに重大な意味がある。同報告書の中に次のような一節がある。

 「全体的なパッケージの中で沖縄に関する再編案は相互に結びついている。特に嘉手納以南の統合及び土地の返還は、第3海兵機動展開部隊要員及びその家族の沖縄からグアムへの移転完了にかかっている」

 沖縄からグアムへの第3海兵展開部隊の移転は(1)普天間飛行場代替施設の完成に向けた具体的進展(2)グアムにおける所要の施設及びインフラ整備のための具体的進展―にかかっている。つまり米海兵隊のグアムへの移転は、辺野古の基地建設のメドがたつまでは実行しない、というワン・パッケージにしてしまったのだ。

負担軽減の十字架

 

 「沖縄基地負担の軽減」という十字架を背負った日本政府としては、米海兵隊のグアムへの移転は待ち望んでいる目標であり、その実現のためにはなんとしてでも辺野古へ基地を建設しなければならなくなってくる。これは沖縄返還交渉の際にも示された、目標達成のため米側が必ず使うワン・パッケージの方式である。

 沖縄県民が県民投票において圧倒的多数で辺野古への移転に反対しても、日本政府がなんとしてでも既定路線を変えないのは、この米軍再編報告書にしばりつけられているからである。

 この米軍再編報告書は米軍のイラク撤退後における米国防総省の国際軍事戦略の大転換に伴って作成された。米国防総省はアフガン戦争の泥沼化、イラク終戦処理の失敗(テロ集団・イスラム国の誕生)などによって、いわゆるアジア・太平洋地域にまたがる「不安定の弧」対策の重心を中東から太平洋へ転換した。

新たにN2護岸の工事が始まった新基地建設工事現場=2021年8月27日午後3時50分ごろ、名護市辺野古(小型無人機で撮影)

戦略中枢はグアム

 

 この大戦略の中枢はグアムであって、沖縄ではない。沖縄の海兵隊、海・空の3軍統合のためグアムへ移駐するこの移転は、沖縄米軍基地の負担軽減のため、日本政府の要請に基づいて行われるのではなく、米軍の戦略上の配備から、自ら進んで行うものである。

 辺野古沿岸、とくに大浦湾は水深数十メートルに達する沖縄では珍しい深海水域で、また中枢のグアムとはそう遠くない距離で向き合っている。

 沖縄返還交渉は結論的にいってすべてが密約ないしは密約の部類に入る虚妄の交渉であった。返還をとらえて軍事、財政のあらゆる面で最大限、しぼり取ろうと構えていた米側にとってはまさに好餌ごさんなれのような状況であったといえよう。

 沖縄返還自体がまさに日本国民待望の戦後最大の政治テーマであったことは間違いない。しかしこの最大の行事が米側に巧みに利用されて日本に多大の後遺症を残し、国の形が変容されるほどの影響を残したことも事実である。
 (元毎日新聞記者)


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