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改憲めぐる新聞社説 地方紙の多数は否定的、全国紙に社会の空気感<山田健太のメディア時評>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
護憲派が開催した「憲法大集会」でメッセージを掲げる参加者=3日午後、東京都江東区

 沖縄と縁が深い「ウルトラマン」シリーズの新作が昨日、公開された。同じ円谷プロが手掛けた特撮映画の代表作が「ゴジラ」だ。沖縄が日本から切り離されて間もない1954年に、“水爆大怪獣映画”として生まれた。そこでは防衛隊の名称で迎撃組織が描かれ、字幕では海上保安庁が表記されている。

 同じ年、現実社会では保安隊が自衛隊に衣替えし、80年代以降は劇中にも自衛隊が登場するようになった。そして最新作である「シン・ゴジラ」では、米国に援軍を依頼する話になっている。それはまさに、この間の日本における「防衛」体制の変遷そのものだ。戦い方も戦術核の使用も含め、まさに今日的状況を示唆するものだ。

 そうしたなかで、今年の憲法記念日の各紙社説は「平和」をテーマに掲げるものが多数だった。この憲法の中核的な理念と、在沖米軍の質的強化や先島諸島で急速に進む自衛隊配備が整合するものなのか、憲法改正をめぐる立ち位置を通じ考えてみよう。
 

平和主義強調

 多くの社が、眼前のウクライナ・ロシア戦争や収束しないコロナ感染症といった内外の「危機」と、それを意識しての改憲論に触れる。そのなかで明確に賛成するのは北國(石川)「憲法施行75年 『自ら守る』意思を明確に」で、ほかに山陽(岡山)「憲法記念日 合意をえながら議論深めよ」などと改正議論を進める立場に立つものがある。

 改憲反対でわかりやすいのは9条を見出しに掲げた、神奈川「憲法施行75年 これ以上9条を壊すな」、神戸(兵庫)「憲法施行75年 9条の意義を語る言葉を探して」だ。平和憲法・平和主義を掲げたものとしては、北海道「きょう憲法記念日 平和の理念今こそ大切に」、秋田魁「憲法施行75年 平和主義後退させるな」、河北新報(宮城)「平和憲法と安全保障 『同盟の恐怖』克服する力に」、新潟日報「憲法施行75年 戦争放棄の理念今こそ」、山梨日日「憲法施行75年 平和守る理念 危機の時こそ」、南日本(鹿児島)「憲法施行75年 平和主義の理念堅持を」、長崎「憲法記念日 色あせぬ平和主義の理念」、熊本日日「憲法施行75年 平和主義の価値再確認を」、沖タイ「憲法施行75年 いまこそ平和主義を貫け」がある。

 そのほか多くは議論不足の指摘や改正の必要性に疑問を呈するもので、中国(広島)「緊急事態条項 憲法の改正まで必要か」、京都「憲法記念日に 浮足立たず、向き合う時だ」、徳島「憲法施行75年 存在と意義を意識したい」、愛媛「施行75年の日に 改正の機は熟したといえるのか」、高知「憲法施行75年 「なし崩し」を危惧する」、西日本(福岡)「憲法施行75年 広く、深く論じなければ」がある。

 なお、琉球新報は〈施政返還50年〉の見出しで連続社説を掲載する。3日は「憲法と沖縄 地方自治規定が鍵握る」だった。中日(愛知)・東京も連続社説を組んでおり、3日が「憲法記念日に考える~良心のバトンをつなぐ」、4日が「憲法施行75年に考える~『平和国家』は色あせず」であった。

 このほか信濃毎日(長野)は「憲法記念日に 物言う自由を手放さない」と言論の自由に絞り昨今の日本国内の表現規制に危機感を示す。福島民友は「コロナ禍と子ども~安らげる居場所づくり急務」と憲法には触れず〈こどもの日〉に向けた社説であった。
 

理念再確認求める

 全体の多数を占めるものは、理念の再確認を求めるもので、反対に分類したものと大差はないともいえる。なお、見出しが似ているのは、共同通信の配信を利用していることとも関係していよう。以下、列挙する。

 東奥日報(青森)「憲法施行75年 危機にこそ理念再確認を」、デーリー東北(青森)「憲法記念日 試練に直面する平和主義」、岩手日報「憲法施行75年 危機下に冷静な議論を」、山形「憲法施行75年 危機にこそ理念再確認」、福島民報「憲法施行75年 原則は守られているか」、茨城「憲法施行75年 危機にこそ理念の再確認を」、上毛(群馬)「憲法施行75年 危機にこそ理念確認を」、下野(栃木)「憲法施行75年 国民的議論で理解深めよ」、静岡「憲法施行75年 視野広く冷静な議論を」、岐阜「憲法施行75年 危機にこそ理念再確認を」、北日本(富山)「憲法施行75年 改憲の是非熟考せねば」、福井「日本国憲法施行75年 危機にこそ理念踏まえよ」、山陰中央(島根)「憲法施行75年 理念再確認の議論を」、日本海(鳥取)「憲法施行75年 危機にこそ理念の再確認を」、大分合同「憲法施行75年 国民の目で問い直そう」、宮崎日日「憲法施行75年 危機にこそ理念の再確認を」。

 以上が、2022年5月3日付各紙の社説見出しのすべてで、題号に都道府県名が入っていないものはカッコで示した。あわせて全国の新聞を知る機会にもしていただきたい。なお、東京以外では、千葉・埼玉・滋賀・大阪・奈良・和歌山・三重・香川の各府県については、該当する社説掲載紙がなく、これらを除く38道府県のうち、沖縄・福島・青森は2紙が対象で、その他は1紙が対象である。全国紙と呼ばれる東京発行紙は次に掲げる(中日・県民福井・東京は共通社説、日本海・大阪日日は共通社説)。
 

県内施行50年

 地方紙の多くは「改憲」に反対もしくは否定的の立場を明らかにしているのが大きな特徴であるのに対し、在京(全国)紙は反対の立場は毎日「危機下の憲法記念日~平和主義の議論深めたい」だけで、朝日「揺らぐ世界秩序と憲法~今こそ平和主義を礎に」も否定的ではある。産経「憲法施行75年 改正し国民守る態勢築け~『9条』こそ一丁目一番地だ」、読売「憲法施行75年 激動期に対応する改正論議を」は賛成、日経「人権守り危機に備える憲法論議を深めよ」は中間的な立場である。世論調査で改憲賛成が過半数を超える、現在の日本社会の空気感を現わしているともいえよう。

 サンフランシスコ講和条約締結の「屈辱の日」(4・28)から、憲法記念日(5・3)を挟んで沖縄が返還された祖国・本土への「復帰の日」(5・15)と続く。それは年代でも同じ順番だ。その真ん中に位置する日本国憲法は、沖縄を除く46都道府県に住む日本国民の代表者によって制定された。一方、沖縄は米施政下の27年間「無憲法」時代を過ごすことになる。その意味では復帰50年は、日本国憲法の県内施行50年でもあるということだ。

 冒頭に触れたウルトラマンの脚本を担った沖縄出身の金城哲夫や上原正三は、作品の中で「抑圧されし者」を繰り返し扱っている。いま「危機」を乗り越えるために沖縄に期待されていることが、自衛隊の南西シフトに代表されるように、本土防衛のための「捨て石」だとすれば、その構図は77年前と全く変わらないことになる。あるいはコロナ禍のずばぬけて高い感染率も、貧困による抗体力に問題があるとすれば、それもまた歪(いびつ)な経済構造に押しとどめられる状況に直結する。各社社説のほとんどが触れる「平和」の内実を、沖縄県民の立場から実現することが、日本の平和を実効あるものにすることだと考える。

 (専修大学教授・言論法)


 本連載の過去記事は本紙ウェブサイトや『愚かな風』『見張塔からずっと』(いずれも田畑書店)で読めます。