振興策、自立の足かせ 復帰50年「県民本位の経済開発」 琉球大・獺口浩一教授に聞く 民間主導で好循環


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インタビューに答える琉球大国際地域創造学部の獺口浩一教授=11日、西原町の琉球大学

 日本復帰から15日で50年を迎えた。復帰前年の1971年、琉球政府の屋良朝苗主席が日本政府に提出した「復帰措置に関する建議書」では、県民本位の経済開発を求めている。復帰後半世紀の間、県民本位の経済開発がなされたのか。琉球大国際地域創造学部の獺口(おそぐち)浩一教授に話を聞いた。

 ―県内の経済指標を見ると復帰50年間で一定の伸展が見られる。どのように評価するか。

 「経済発展の土台作り、社会資本のインフラ整備はできている。そういう意味では成果はあった。ただ、生活水準が向上した背景には国からの財政支援がある。高率補助などの優遇制度も含め、こうした振興策が今なお続く。振興策ありきの地域経済が出来上がってしまっている」

 「民間企業が公的支援を企業活動の前提にする感覚が根付いているという印象だ。自らにない技術やノウハウを企業間の協業などで獲得し新たな価値を生み出すことで、市場の競争に勝ち成長する、そうした風土が沖縄では見られない。技術革新や生産性の向上の足かせになってはいないか」

 「生産性の向上には、高い技能を持つ多様な人材が豊富で、高い賃金を払って人材を獲得し企業の成長につなげようとする環境が築かれなければならない。沖縄の収入が低いということは求められる人材の範囲や水準が限定的という側面もある。その意味で県民本意の経済開発は道半ばとなる」

 ―公的支援前提の振興計画は、時の政権の干渉も懸念される。

 「沖縄振興は振興計画に基づいて予算が配分されるため、地域の政策のはずが、国の意向や政策に左右されがちだ。また、業界団体の意向をくみ過ぎる面も気になる。話を聞き過ぎては真の地域課題の改善につながらないこともある。行政は未来に向かって新しい姿をつくりださないといけないが、現状では効果的な政策立案による、自律した地域経済が描けないのではないか」

 ―沖縄は観光がサトウキビに代わる基幹産業といわれるまでに成長した。

 「観光は重要だが、極論で言えば、ハコだけ造って人や物は県外から供給しても成立する。地域経済の活性化には地場の1次・2次産業や情報通信産業などとの結びつきを強く持つ観光の姿が重要だ。実際に県外製品が沖縄の土産品で売り出されていることも少なくない。需要をしっかり県内で供給することができれば地域に落ちるお金も増え、企業に力も付く」

 「一方で、観光業が多くの雇用の受け皿になっているが、生産性の高い産業であるかは別の話だ。例えば、観光が本当に地域の基盤産業なのか、その立ち位置や課題を科学的に検証することで、産業政策の課題や方向を見つめ直し、戦略的な政策を展開する必要がある」

 「一つ一つ沖縄でできることを増やす必要がある。県内に点在する特区を横串を通すように連携させることで県外企業との協業を推進してほしい。これら経験によるノウハウを積み重ねることで民間の活力が高まり、産業構造や生産性にも良い影響を与えることを期待したい」

 ―国からの依存度を減らし、民間主導を促す。県や国は振興計画の在り方を見直すべきか。

 「果たしてきた役割は否定しないが、50年前にできた仕組みでこれからの50年を語ることができるのだろうか。国には別の支援の仕方があると思う」

 「沖縄には地理的特性や独自の文化がある。沖縄という地のプレゼンスを高める大きな力になりえる。発展の可能性を具現化するのは民間であって行政ではない。行政は今から目指す戦略や姿に民間企業を誘導してほしい。好循環をつくり出し、県民所得の向上や雇用環境の改善がさらに進むことで、建議書のいう県民本位の経済開発につながると考えている」

(聞き手・小波津智也)