ウクライナ情勢と安全保障 伊勢崎教授に聞く 「沖縄を非武装化」 緩衝国家の自覚持ち、戦争回避


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インタビューに応じる伊勢崎賢治氏=4月25日、東京都内

 【東京】ロシアによる侵攻以降のウクライナで戦闘に巻き込まれる市民の犠牲が後を絶たない。過去に紛争地で武装解除などを担った経験を持つ東京外国語大学の伊勢崎賢治教授(平和構築学)は、両国の停戦合意を目指し、他国はそれを支援すべきだと唱えている。また、日本がロシアや中国と海を挟んで隣り合う状況に「緊張感が足りていない」と指摘した上で「沖縄と北海道を完全に非武装化すべきだ」と訴える。ウクライナ情勢や日本の安全保障環境について展望を聞いた。

 ―ウクライナでの戦争について各国はどういう姿勢を取るべきか。

 「今、国際社会が目指すべきは、両国間の停戦の合意形成だ。西側諸国や日本は真逆の事をしている。なぜ武器や装備を送って戦争を継続させる支援をするのか。今のやり方では、武器は最終的に誰の手に渡るか追跡できず、武装勢力の乱立につながる恐れがある」

 「停戦を目指すのは、何より一人でも多くのウクライナ市民の命を救うためだ。さらに、犠牲者はもはやウクライナ市民だけではない。特にアフリカにとってロシアとウクライナは、穀物や化学肥料の最大の供給源だった。今回の戦争は、そういう貧困国を直撃する。異常気象やコロナ禍の影響に拍車が掛かり、地球規模の飢餓を意味する」

 ―武力侵攻を容認することにならないか。

 「私は戦争をする指導者は全て悪魔だと思っている。ロシアのプーチン大統領であれアメリカの歴代大統領であれ。停戦とは『悪魔』とも対話しなければならない調停作業だ。双方がこれ以上戦っても当初の戦争目的が達成できないと戦況が硬直する時は必ず訪れる。それをできるだけ早く実現するため第三者が介入する事が重要だ」

 「停戦は、降伏と明確に異なる。戦争の結果とは無関係だ。領土・帰属問題の決着や戦争犯罪の取り扱いは、むしろ戦闘行為が中断されてから時間を掛け議論すべきだ」

 ―ウクライナ情勢を踏まえて日本の安全保障をどう考えるか。

 「日本は米国とその仮想敵国との狭間にある『緩衝国家』だ。北海道がロシア、沖縄が中国への最前線に面し、ウクライナ以上に戦争を誘発する条件がそろっている。日本は、緩衝国家としての自覚を持ち、自衛隊を維持し、米国と同盟関係はあっても、ロシアや中国を刺激しないよう両国に対する最前線には自衛隊も米軍も常駐させないようにすべきだ。そのために日米地位協定を改定し、少なくとも国内のどこにでも米軍基地が置ける『全土基地方式』を撤廃する必要がある。国防の観点から沖縄と北海道の完全非武装化を考えるべきだ。相手方の安心感を保証することで、緊張を緩和して戦争を回避することにつながる」

 ―それは可能なのか。

 「北欧のノルウェーは米軍の常駐、そして国境付近での自国軍の軍事演習も制限してきた。米国と軍事同盟にありながら、地続きのロシアを刺激しない外交を国是とし、さらに他国同士の対話を仲介するなど世界平和の礎を築いてきた。地位協定上もノルウェーは米国と対等な関係を築いている。米軍にとってはノルウェーの法に従わなければならない『自由なき駐留』で、訓練や基地の設営も含めて全てノルウェーの許可が要る」 (聞き手 明真南斗)