NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」が、放送開始から1カ月半を迎える。初回の視聴者数は約2千万人、NHKプラスの「連続テレビ小説」初回放送の視聴者数も約16万人と最多を記録した(いずれも4月20日時点、ビデオリサーチ調べ)。やんばるの豊かな自然や郷愁を誘う日用品など、復帰前後の沖縄を巧みに表現した美術デザインも同作の魅力だ。県民をはじめ、全国から注目を集める同作の、美術デザインへのこだわりをNHK映像デザイン部の山内浩幹(ひろき)チーフデザイナ―と枝茂川泰生(しもかわたいせい)デザイナーに聞いた。 (聞き手・藤村謙吾)
―連続テレビ小説は、作品によって時代や地域が毎回異なる。「ちむどんどん」ではどのようにセットや道具作りをしたのか。
「事前に本などで勉強し、2021年の春ごろに、沖縄に行った。沖縄の歴史を学ぶ上で避けては通れない、南部戦跡やひめゆり平和祈念資料館に最初に行き、沖縄の歴史がそういうもの(沖縄戦)の上に成り立っていることを学んだ。その上で、琉球村など実際に昔の沖縄の家が建っている所を見て、沖縄の家の造りを自分たちの目で見て、においを感じて、勉強した」
―ヒロイン比嘉暢子(のぶこ)役の黒島結菜さんをはじめ、母・優子役の仲間由紀恵さんなど、「ちむどんどん」出演者のみなさんがやんばるの比嘉家のセットを、「本当に沖縄にいるようだった」と絶賛していた。1970年前後の建物ややんばるの空気感を出すためにどのような工夫をしたのか。
「沖縄本島北部の山原には、本土にない植栽がたくさんあった。沖縄は海がきれいというイメージがあるが、やんばるは山や生き物の存在が大きく、東京のスタジオで再現するにも植栽が大事だと思った。だから、ソテツやバショウ、オオタニワタリ、ゲットウなど、20種類ほどの本土にない植栽を取り寄せて、それらをセットを囲むように全面的に配置した。葉っぱも大きく、一つ一つ伸び伸び育っている植栽が、やんばるの感じをすごく出してくれたと思う。琉球石灰岩の石垣があるなど、沖縄ならではの石の文化も意識した」
―共同売店にある商品のパッケージが、実際に存在するもののようだ。
「共同売店の歴史を調べている方に1960年代、70年代に店に置いてあった商品を教えてもらい、こちらで全てデザインした。兄の賢秀が身につけている『スーパーバンド』は重要なアイテムなので、特に中身、パッケージデザインまで一からこだわって作った。また、アメリカ統治時代の沖縄の雰囲気を感じさせるものとして缶詰類があり、スパムからパイナップルまでオリジナルデザインで作っている。後は、飲み物。『チュラソーダ』といういかにもありそうな架空の商品をデザインした。チュラソーダは暢子が東京に行った後も出てくる。いちパッケージデザインに終わらない、美術的な展開にもこだわった」
―比嘉家が住む村を走るバスは、どのように準備したのか。
「(舞台は)アメリカ統治時代なので、左側ハンドルのバスが必要だった。日本では手に入らず、米国で探し出して、オリジナルの外装ラインを施して撮影した。バスだけでなく、バスガール、バスの整理券なども当時のものを一つ一つ調べてデザインしている。また、当時のバスは防さび塗装をされていなかったと思われるため、海風でさびるなど経年劣化があるだろうという想定で、エイジング(古く見せる加工)をする職人が一つ一つハケを使って加工している」
―主な舞台は東京、神奈川県横浜市鶴見へと移った。鶴見のセットのこだわりを聞かせてほしい。
「鶴見の『沖縄タウン』を取材し、そこにあったものを再現するというよりは、そこで感じたエッセンスを再構築し、あらたな町にした。鶴見の特徴的なアーケード、また工場が多い印象だったので、工場で働く労働者の方たちがくつろげて楽しめる町というイメージで作った。沖縄の国際通りにもインスパイアされた」
―美術デザインのどのようなところを楽しんでもらいたいか。
「画面に映る全てを楽しんでもらいたい。美術の扮装(ふんそう)だったり、セットだったり、60、70年代を再現しているので、当時を覚えている方は懐かしんで見ていただいてもいい。話し尽くせないくらい、細部にまでこだわって、手を抜かずに作り込んでいる。録画して、2回、3回と見るときは、美術の細かいところまで見てもらいたい」
一緒に沖縄を盛り上げたい ヒロイン暢子役・黒島結菜さん
ヒロイン・暢子(のぶこ)役を務める黒島結菜さんが4月30日、NHKの番組「土曜スタジオパーク」の公開生放送終了後、琉球新報の取材に応じた。黒島さんは収録を「緊張したが、皆さんが温かく見守ってくれているのが伝わった。(沖縄の人と)同じ空間を共有することが、あまりないので楽しかった」と振り返った。
取材時、やんばる編終了まで10話を残すばかり。黒島さんは「(やんばる編では)やりたいことが見つからずどん底の暢子が、やりたいことを見つけて、生き生きと魅力的になる。東京に行くまでも、いろいろな暢子が見られて面白いので、沖縄やんばる編を(最後まで)楽しんでほしい」と語った。「『ちむどんどん』を楽しみながら、一緒に沖縄を盛り上げていけたらうれしい」と笑顔をみせた。