玉城デニー知事は25日に県庁で開かれた「米軍基地問題に関するアドバイザリーボード会議」の入場時に「ゼレンスキーです。よろしくお願いします」などと述べ、ロシアによる侵攻で戦争当事国となっているウクライナのゼレンスキー大統領を引き合いに「冗談」を述べた。多数の住民が戦闘に巻き込まれているウクライナの惨状は、77年前の沖縄戦に重なり、多くの県民が心を痛めている。こうした中で、知事の「冗談」は、不謹慎な発言とのそしりを免れない。
議事録に残る正式な会議前とは言え、公務中の発言であり、この日の会議に集まった委員も県が招聘(しょうへい)した。知事発言への批判は、「揚げ足取り」だとの指摘も一部であるが、公費を使って開かれた会議の場所で、県行政のリーダーの発言として不適当ではないだろうか。
ウクライナ侵攻によって、世界情勢の不安定化が続く。この日の会議もウクライナ情勢がアジアの安全保障環境、在沖米軍基地に及ぼす影響について議題に上がったという。23日の日米首脳会談でバイデン米大統領は中国が台湾を侵攻した場合、軍事的措置で防衛に関与すると明言した。発言の真意について議論を呼んでいるが、県民が感じる台湾有事への危機感は、日に日に高まる。
これに対し、首脳会談後、玉城知事は「米軍基地が集中しているがゆえに沖縄が攻撃目標とされるような事態は決してあってはならない」とコメントした。コメントの通り、県が訴える、過重な基地負担の解消も、米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古新基地建設の反対にしても、出発点は「沖縄を再び戦場にさせない」ということではなかったのか。
「冗談」とはいえ、ウクライナ侵攻を引き合いに出した知事の発言や姿勢によって、県の訴えの説得力を失わせることにもつながりかねない。県民が抱く、普遍的な不戦の願いともかけ離れているように感じる。