子どもたちが生き物への愛情を育む場所として設置されている、学校の飼育小屋。実は多頭飼育や劣悪な環境によって起こるけがや病気などが絶えず、獣医師には教職員や地域住民からのSOSが多く届いている。獣医師らは「動物愛護法に違反した状態も見られる」と強い懸念を示していて、「命の尊さを学ぶという本来の目的が達成できない」と、行政に支援と指導を求めている。
「あまり見ない方がいいですよ。ショックが大きいと思います」。学校飼育動物に対する支援や助言を行う県獣医師会学校飼育動物対策委員会の一人はそう言って、手元にあった写真を遠ざけた。連絡を受けて駆け付けた飼育小屋で撮影したウサギには、えぐれたような傷があったり、すでに死んでいたりした。対策委の獣医師は「適切な飼育をしていない」ことが原因と指摘し、「放置すれば、虐待に該当する可能性がある事例もある」という。
飼育方法知らず
不適切な飼育に陥る原因はいくつもある。学校の教職員の多くは、正しい飼育方法を知らない。学ぶ機会も余裕もなく、その結果繁殖しすぎて多頭飼育崩壊に陥ったり、動物同士がストレスで傷つけ合ったりする。栄養のある餌を十分に与えられないケースもある。
対策委の北野崇委員長は「縦割り行政」の弊害も指摘する。学校飼育動物には環境省が所管する動物愛護法が適用されるが、学校での課題は文部科学省が扱う。「教職員と獣医師が抱えるそれぞれの課題が、行政の中でつながりづらい」と話す。
自治体での予算措置
対策委は2020年、県教育委員会に適正飼育のための支援を求めて文書を提出。文書を受けた県教委は、県内の幼小中学校などに「適正飼育に務めるよう」と記載した依頼書を通知したが、学校関係者からは「具体的な支援がない」と不満の声が漏れ聞こえる。
小学校学習指導要領生活編(解説)では動植物の飼育栽培について、「生き物への親しみをもち、生命の尊さを実感するために、継続的な飼育・栽培を行うことには大きな意義がある」と記載している。しかしそれを実現するためにかかる費用を自治体で負担しているところは少ない。
南城市教委は幼稚園と小学校の飼料費を、豊見城市教委は小学校の飼料費や治療費などを負担している。県教委は自治体負担の実態を調査しておらず、県獣医師会が把握している2市以外の状況は不明だ。
南城市の百名小では、ウサギ2羽とカメ、コイを飼育している。飼料費だけで年間1万円以上かかる。飼料費は市教委の負担で「とても助かっている」と仲村保校長は話すが、「病気やけがをしたときの治療代などは学校負担で余裕がない」と悩みも明かす。北野委員長は「命の大切さを動物から学ぼうというのであれば、そのために必要な支援を自治体や県、国がやるべきだ」と指摘する。
(嘉数陽)