少女の見た沖縄戦を描く ひめゆり学徒の証言を基に、児童書「ももちゃん」出版


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ポプラ社から5月に出版された「ももちゃんのピアノ 沖縄戦・ひめゆり学徒の物語」文・柴田昌平、絵・阿部結(ポプラ社提供)

 「むねをはって行進するお兄さんたち、小さな白い箱、中に入った小石……。4年生のももちゃんには、何が何やらわかりません」。沖縄戦でひめゆり学徒隊として動員された与那覇百子(ももこ)さん(94)の半生を描いた児童書「ももちゃんのピアノ 沖縄戦・ひめゆり学徒の物語」が5月、ポプラ社から出版された。日中戦争を境に日常の生活や学校生活などが戦争に向かって変わっていく様子が「ももちゃん」の視点から描かれている。

 ピアノ好きなももちゃん。小学生のころは家で鍵盤を書いた紙を貼った机で練習した。その頃、ピアノの音と共に聞こえてくるのは「軍靴の音」。出兵する若者が町を挙げて送り出される中、ももちゃんは近所のお兄さんが白い箱に入り帰ってきたことに当惑した。その後、グランドピアノがある沖縄師範学校女子部に進学し、ピアノの練習に一層励んだ。学徒隊に動員され、負傷兵の看護などに当たった。

 文章を担当したのはドキュメンタリー映像作家・映画監督の柴田昌平さん(58)。柴田さんは2006年、22人のひめゆり学徒の証言をもとに映画「ひめゆり」を制作、証言者の一人が与那覇さんだった。「与那覇さんは特に穏やかでいつも笑顔。私は『太陽の笑顔』と呼んでいた。戦争で過酷な経験をしながら、ピアノと共に人間の尊厳を保っていた」と振り返った。

柴田 昌平さん

 柴田さんは、ひめゆり学徒たちが「国のために死ぬことは大事なこと」などと思うようになったことが、誰にでも起こりうることを子どもたちが共感できるように書くことに苦心したという。「ひめゆりの人たちは、豊かな感性や個性を持っている人たち。普通の子が戦争に行ったということを伝えたい」と話す。

 「大人にも読んでほしい」と語り、「沖縄戦を自分ごととして感じてほしい。客観的に沖縄戦はこうだったという理解は人ごと。過去の悲惨な出来事としてではなく、自分の物語として感じて、心の中に『ももちゃん』が住むようになってくれるといい」と思いを込めた。
 (狩俣悠喜)