10日投開票の参院選では、新型コロナウイルスの影響で疲弊する県経済の再生や、ロシアのウクライナ侵攻などによる物価高で困窮する県民生活の回復が争点の一つとなる。コロナ後を見据えて必要な生活支援や経済政策の方向性について識者に聞いた。(’22参院選取材班)
「強い中小」で交易推進 獺口浩一氏 琉球大教授(財政学)
―コロナ禍の国と県の経済政策をどう評価するか。
「本来、企業は市場競争の中で育つが、コロナ禍では無利子・無担保の融資など潤沢な支援で企業を延命させてきたようなところがある。新陳代謝が進まず、生産性を下げている。日本は世界をリードする技術大国の一つだったが、その地位が揺らぎ、これまでにないような過渡期を迎えている」
―コロナ後の経済再生に向けて何に取り組むべきか。
「産業構造の転換や、データサイエンスなど新たな分野での人材育成の促進、技術革新をスピーディーに生み出す政策への移行が急務だ。県内も同様だ。ザル経済も産業基盤が弱いことが背景にある。産業地盤を固めるためには、強い中小企業を作って域内外の交易を盛んにすることが重要だ。その上でメリハリを付けた公的支援を展開しながら、生産性の向上や人材育成に取り組むことが大切になる」
―県内はコロナ前から所得が低く、物価高の影響を受け最低賃金の引き上げを求める声もある。
「過度な最低賃金の引き上げは、雇用の減少や人件費の高騰を通じて企業の投資意欲をそぐ可能性がある。企業が生産性を高めて成長した恩恵が、賃金に現れるのが自然な姿だ。今の日本は円安が進み、国際的に見ても構造的にかなり生産性が低い。経済成長が止まっている中で、賃金だけの引き上げは難しい」
―参院選で国政野党は消費税の5%への引き下げを打ち出している。
「消費税は社会保障制度や地方交付税交付金の財源の一部に充てられる。目先の生活だけを考えて減税すると、財政赤字の増額という形で将来の国民に跳ね返る。なぜ消費税を減税対象とするか、その効果はどうか、収支バランスが崩れることに対して財源をどこから持ってくるか、提言者はしっかり答える必要がある」
最低賃金1500円以上に 秋吉晴子氏 しんぐるまざあず・ふぉーらむ沖縄代表
―長期に及ぶコロナ禍や物価高の影響は。
「5月に会員に実施したアンケートでは、集計できた199人の回答者のうち、50%が家賃を、26%が食費を今一番負担に感じている出費項目に挙げた。失業者は1割弱だった。コロナの影響で勤務時間やシフトが減らされ減収した人もいる」
―県内はコロナ前からひとり親の生活苦が指摘されてきた。
「コロナ前、県内の女性の就業率は全国を上回っていたが、正社員でどれだけ働いても給与が低い。収入を得るために長時間労働で、ダブル、トリプルワークせざるを得ない。本来は親がやりたい仕事に就いてキャリアや経験を重ね、子どものために時間を取れる就労環境である方が、子どもも安心して生活できる」
―主要候補2氏は県民生活の再生を重要政策に据えている。
「コロナの影響などで失業し生活に困ったら、生活保護を受けることが大切だ。受給期間は職業訓練や資格取得に向け勉強し、求職活動に専念できる。ただ、生活保護を受給するには車を手放さないといけない。通勤や子どもの送迎、買い物などに支障が出るので、受給せずに暮らすひとり親世帯は多い。やりたい仕事や就労条件を見極めずに就職すると仕事を転々とし、非正規雇用で生活をつなぐことになる。それでは給与も上がらず、年金もほとんど受給できない。生活保護の受給要件も見直してほしい」
―継続的支援として求めたいことは。
「ひとり親が子どもに習い事をさせたり、子どもに我慢させることなく必要な学用品を買ったりできるように、最低賃金を最低でも1500円に引き上げることが必要だ。児童扶養手当に関する所得制限の見直しと、20歳までの給付延長も求めたい。子どもの成長段階に応じて必要な経費と、それに見合ったキャリアプランを提示できるような個別の就労支援も重要だ」