柳沢氏、有事への対応は冷静に 小谷氏、離島住民避難の議論を <参院選2022・識者に聞く>中


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 7月10日投開票の参院選では、米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設、日米地位協定の改定など在沖米軍基地を巡る諸問題も主要争点だ。加えて、米中対立の激化や台湾有事への懸念も県民の間には渦巻く。ロシアのウクライナ侵攻や南西諸島全域への自衛隊配備などの影響もあり、国民保護法に基づく有事の住民避難やその実現性についても関心が集まる。安全保障政策や基地問題などについて識者に見解を聞いた。
 (’22参院選取材班)

有事への対応 冷静に 柳沢協二氏(元内閣官房副長官補)

柳沢 協二氏

 ―米軍普天間飛行場の辺野古移設が問われ続けている。

 「賛否の前に、現実的な政策なのかを問わなければならない。軟弱地盤の存在で大浦湾の埋め立ては技術的にほとんど不可能に近い」

 「辺野古移設にこだわり、普天間返還が先延ばしにされ続けている。そのために、埋め立てを認めるのかが問われるべきだ。国に(移設の)見通しについて説明を求める必要もある」

 ―台湾有事の懸念にはどう向き合うべきか。

 「台湾有事になれば沖縄は巻き込まれる。それを踏まえ、日米のミサイル網が抑止力として必要か、攻撃回避のために外交的解決を考えるのか、選択の問題だ。『対中抑止のための南西諸島』は軍事の論理だ。日本の抑止力のために沖縄があるのであれば、沖縄戦での『捨て石』の二の舞になる」

 ―関連して、有事の国民保護についても議論が起きている。

 「当初の国民保護は他国部隊の着上陸侵攻を想定し、数日・数週間の対応期間が考慮されていた。他方、ミサイル攻撃には数十分で対応せねばならず、やり方は変えねばならない」

 「離島では避難場所が少なく、全島避難が必要になる。そうした想定のないまま、南西諸島へ自衛隊配備を進めることはバランスを欠く。有事には自衛隊や米軍の協力も期待できないだろう。軍艦や軍用機に住民を乗せると、かえって攻撃対象になりうる。離島の住民保護や被害について想定・試算をした上で議論をしなければ賛否は出ない。ミサイル戦争に伴う住民避難の現実性を踏まえ、対応を検討する必要がある」

 ―有権者が安全保障問題について意識すべきことは。

 「ロシアのウクライナ侵攻を受けて『日本も戦争に備えなければならない』と短絡的に結び付ける向きもある。戦争が起きて、精神的動揺がある時期だからこそ、できることとできないことを冷静に見極めることが重要だ」

離島住民避難 議論を 小谷哲男氏 明海大教授(安全保障論)

小谷 哲男氏

 ―米軍普天間飛行場の辺野古移設が沖縄では問われ続けている。

 「普天間飛行場の危険性除去に立ち返る必要がある。辺野古移設決定の経緯を見ても、(地元にとって)苦渋の判断だった。歓迎ではないが、この人たちだけが手を挙げてくれたことをいま一度考えるべきだ」

 「軟弱地盤の存在などで、計画通りの工事が難しくなっている。工期が大幅に遅れるのであれば(現行の)V字型滑走路ではなく、既に埋め立てた部分への滑走路建設も選択肢の一つにしてもよい。柔軟な発想が必要だ」

 ―台湾有事への懸念も高まっている。現状は。

 「日米が台湾有事の可能性の高まりを認識する中で、南西諸島は台湾有事対応の最前線となる。中国の軍事戦略の柱は、台湾有事への米軍の介入阻止だ。中国の揚陸作戦能力が整うとされる2027年以降、侵攻の可能性が高まると思う」

 「台湾統一は中国にとって最重要課題だ。習近平国家主席にとって、台湾統一は3期目を目指す理由になりうる。中台の経済関係強化によって台湾を取り込む戦略から、力ずくの統一戦略に変化してもおかしくない」

 ―離島住民の有事避難も議論になっている。

 「ロシアのウクライナ侵攻でも市民退避は課題となった。陸路避難が可能なウクライナと違い、南西諸島は船や航空機が必要になる。政府、自衛隊、自治体間で真剣に議論すべきだ」

 「危機が迫る状況で、民間の航空機・船舶が使えるうちの早期避難が重要だ。本土から自衛隊を輸送した航空機・艦艇が帰りに離島住民を乗せるという運用もありうる。加えて、台湾有事では台湾から邦人や避難民が南西諸島に避難する可能性も念頭に置くべきだ」

 ―有権者は安全保障問題をどう考えるべきか。

 「台湾有事を含め、再度現実的な議論をする必要がある。さまざまな意見がある中で、安全保障のあり方を考える機会にしてほしい」