島袋氏、沖縄振興の問題争点に 渕辺氏、幅広い産業振興が必要<参院選2022・識者に聞く>下


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 10日投開票の参院選では、復帰50年以降の沖縄振興の在り方も問われている。今年から第6次計画が始まった沖縄振興を今後どうすべきか。識者に聞いた。
 (’22参院選取材班)

沖縄振興問題争点に 島袋純氏 琉球大教授(行政学)

島袋 純氏

 ―復帰から50年間続く沖縄振興の評価は。

 「私は相当否定的だ。復帰の本質的な目的は『基地の恒久的な存続と自由使用』と言えるが、沖縄振興体制はその延長線上にあると発想した方がいい」

 「復帰当初は沖縄振興で豊かになり、基地経済依存から脱却して基地を撤去する方向性だったが、大田昌秀県政の時に国際都市形成構想を策定した辺りから、基地を維持強化するために振興策をリンクさせる方向に転換した。内閣府の権限も強くなり統治の手法がより巧妙化している」

 ―どう変えるべきか。

 「内閣府は政治介入がしやすい役所で、沖縄は政治的意思に大きく左右される。この仕組みを自民党は変える必要は無い。だから沖縄側から提案をするしかない。一番盛り上がったのは2009年に沖縄経済同友会が中心となって打ち出した特例型単独州制度だ。内閣府が交付決定をする一括交付金ではなく、県が自由に支出できる交付税交付金を要望した。高度な自治権を有する提案だったが実現しなかった。野党は沖縄振興の問題点を争点化し、在り方を提案すべきだ」

 ―どう実現するか。

 「沖縄は日本に強制併合された歴史を持つ。独立国家が強制併合されるのは国際法上許されない。国連人権規約では自己決定権について規定され、沖縄の人々も有する。こうした法的根拠を用いて、沖縄振興体制の在り方をもう一度提起するべきだ。きちんとした根拠がないと基地と引き換えの議論となる」

 ―沖縄振興特別措置法に基づく特別措置をいつまで続けるべきか。

 「すぐにでも廃止し、全国都道府県と同様の制度になる方がまだマシだ。ひも付きの沖縄振興予算が増えれば増えるほど、自由に使える交付税交付金が減って福祉や教育予算に回せない。こういった背景もあり、子どもの貧困は構造化されている」

幅広い産業振興必要 渕辺美紀氏 沖縄経済同友会代表幹事

渕辺 美紀氏

 ―復帰から50年間続いた沖縄振興の評価は。

 「5次にわたる沖縄振興計画で、振興予算が13兆円以上投じられており、成果は確実にあった。インフラ整備が進んだ。20数年前までは断水は頻繁にあったが、今はダムが完成して給水に困らなくなった。まだまだ全国との格差はあるとは言え、県民所得も上がっている」

 「それに観光産業もしっかり育ってきた。新型コロナウイルスで大きなダメージを受けたが、コロナ前には1千万人の観光客が来た。これも沖縄振興の成果だ」

 ―これからの沖縄振興で伸ばすべき点は。

 「沖縄の優位性や独自性を踏まえた産業振興だ。観光産業の比重が大きい沖縄はコロナ禍で全国一、経済的打撃を受けたことを踏まえ、幅広い産業の構築を考えないといけない。世界的な研究水準を誇る沖縄科学技術大学院大学(OIST)などの研究を活用したり、リゾート地の観光資源を活用した起業支援を進めたりして、新たな産業が生まれる『リゾテック・エコシステム』を構築したい」

 ―沖縄振興特別措置法に基づく特別措置はいつまで続けるべきか。

 「永続的に続くとは誰も思ってない。だからといって期限を決めてそこで終わるということでもない。今年から新たに10年間の第6次振計が始まり、途中5年での見直しが付則で盛り込まれた。計画を着実に実行しつつ、折り返し5年の結果を踏まえて判断するべきだ。ただロシアのウクライナ侵攻や円安の影響による物価高など予測不可能な世界情勢の変化もある。沖縄単独で対応するのは難しく、幅を持たせた判断が必要だろう」

 ―沖縄振興は政治的思惑が影響するとの見方もあるが、どう見るか。

 「全くないものではないと思うが、結果として公共投資は一時的に減ったとしても後に伸びている。振興策は着実に成果を上げてきた」