重篤な救急患者に対応する救命救急センターが設置されている沖縄県立中部病院と県立南部医療センター・こども医療センターが今、本来の機能を果たせない状態となっている。新型コロナを含めた軽症者や社会活動再開による飲酒がらみの外傷など、本来は地域の医院にかかるべき患者が来院してしまう「コンビニ受診」の増加が要因で、重症患者の対応遅れが懸念される事態になっている。現場も疲弊し、救急医の離職者も出始めた。医師らは「現状のままでは救急の受け入れ先がなくなり、医療が崩壊する。感染対策や薬の備蓄に合わせて日中は地域のクリニックを利用するなど、救命センターの適正利用をお願いしたい」と強く訴える。
◆緩む感染対策
救命センターの受診者は、県立中部病院で1日平均100人、南部医療センター・こども医療センターは平日90~120人、休日は約170人を超えており、両院ともにコロナ禍前の2~3倍となっている。中部病院の山口裕医師によると、約半数は発熱のある患者だが、自宅待機で様子をみるべき段階も多い。
ただ、来院すればそれぞれ診察をする必要があり、対応には一定の時間を要する。心筋梗塞や脳卒中などの患者が多くの患者に紛れて対応が遅れる可能性もあるため「重症患者に対応する救急医療の質を維持することも困難になる」と述べた。
◆スタッフに暴言
働く医療従事者の精神的負担は患者の数によるものだけではない。
南部医療センター・こども医療センターの土屋洋之医師によると、受診までの長時間待機に憤り、スタッフが暴言を浴びせられることもあり「疲労度を増加させる」という。社会活動の再開で飲酒による酩酊(めいてい)に起因する患者も増えた。
周辺医療機関が救急搬送の制限をせざるを得ない現状だが、早く受診してもらう目的で救急車を呼ぶ患者もいるという。土屋医師は「今後、他の感染症の流行や観光客の受診なども増加すると、救急に来てもすぐに対応できなくなることを知ってほしい」と訴える。
◆受診制限も
医療崩壊が危惧される要因は、離職者が出始めたことにもある。約2年半のコロナ禍に使命感で向き合い続ける医療者にとって、日常に戻る過程で感染対策が緩んでいく社会との間に大きなギャップを感じてしまう部分もあるという。
「鼻水や咽頭痛があっても登校、出勤し、その後に発熱したといって受診する患者がほとんど」(中部病院の山口医師)。感染対策の緩みを実感する場面だ。「人材不足で救急医療の質は低下し、受診制限も考えざるを得ない状況も迫っている」と語った。
医療体制を揺るがすほど救命センターに軽症者が殺到する背景は何なのか。複数の医師は戦後、沖縄の救急医療体制が充実した結果、県民には気軽に受診できる「時間外診療所」のように認識されている部分があると解説する。土屋医師は「救急医療は重症患者に対応する機関。平時なら軽症者も受け止められるが、沖縄特有の救急システムはコロナ禍によって破綻している」と訴え、夜間の急患センターを新たに設置するなど、医療体制を再構築する必要性も強調した。 (嘉陽拓也)