参院選と公明の影響力 改憲は容易ではない<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 10日に投開票が行われた参議院議員選挙では自民党が圧勝した。任期6年の参議院議員は定員250人だが3年ごとに半数(125人)が改選される。今回、自民党63議席を獲得し、非改選議員と合わせると119議席を獲得することになった。改選前と比較すると8議席増の圧勝だ。日本の新聞の報道を見ると憲法改正の可能性が高まってきたという印象を受ける。

 憲法改正に賛成する自民党、公明党、与党系無所属、日本維新の会、国民民主党を合計すると178議席で、憲法改正発議のために必要とされる議員の3分の2(167議席)を超えたからだ。衆議院でも憲法改正に賛成する議員が3分の2を超えているので、国会で憲法改正の発議をする条件が整った。

 <岸田文雄首相は11日、参院選での大勝を受けて自民党本部で記者会見し、憲法改正に向けた「民意」が示されたと述べ、党総裁として国会論議をリードする決意を表明した。「できる限り早く発議に至る取り組みを進めていく」と語った。(中略)/安倍晋三元首相の死去に触れ「思いを受け継ぎ、拉致問題や憲法改正など、ご自身の手で果たすことができなかった難題に取り組む」とした>(11日、本紙電子版)

 しかし、実際には憲法改正にどのような内容を盛り込むかについて、各党の見解がばらばらだ。特に憲法9条の改正については、公明党が慎重な姿勢を崩していない。マスメディアの基準では改憲勢力に含まれるが、公明党の方針は現行憲法の価値観を活(い)かして、それに不足している環境権などを拡充するという路線なので、憲法9条の抜本的改訂をもくろむ自民党や日本維新の会とは異なる。

 自民党の国会議員の多くは公明党の支持母体である創価学会の支援を得ずに選挙で当選することができない。憲法改正問題に関する公明党の影響力は議席数よりもはるかに大きいことを考えると、そう簡単に憲法改正は実現しない。

 現下日本政治の特徴は、2012年に第2次安倍政権が誕生した後、「2012年体制」と呼ばれる強固な政治システムが構築されていることだ。体制だから、首相が替わっても政治構造は維持される。ここでも草の根の組織を持っている創価学会を支持母体とする公明党が重要な機能を果たしている。

 8日に安倍晋三元首相が殺害されたことも今後の岸田文雄首相の政権運営に影響を与える。これまで岸田氏は経済政策、人事において脱安倍路線を進めてきた。しかし、安倍氏の悲劇的な死に直面して国民の多くが衝撃を受けている状況で岸田氏が脱安倍路線を露骨に進めることはできなくなった。具体的にはアベノミクス批判が封印されることになろう。岸田政権の経済政策は「新しい資本主義」という看板の下で競争原理を重視する新自由主義を推進することになると筆者はみている。

(作家、元外務省主任分析官)