【識者談話】自衛隊への名簿提供 法的根拠見いだせず「違法」 前田定孝・三重大准教授


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前田 定孝氏

 自衛隊員の募集のために個人の情報を記した名簿(住民基本台帳の一部の写し)を提供することについて、いかなる法律や条令からも根拠は見いだせず、違法だと考える。名簿提供自治体の多くは、防衛省と総務省が発出した通知に沿って自衛隊法施行令120条を根拠にしている。誤った解釈だ。同条は「資料提出を防衛相が市町村長に求めることができる」と防衛相の権限を定めたに過ぎず、市町村長の権限を定めたものではない。

 個人情報の提供は本人の同意がなければ認められないのが原則だ。本人には個人情報の外部提供が違法な場合に、自治体に提供停止を求める権利がある。沖縄県外では、名簿からの除外を希望する人を事前に受け付けている自治体もあるが、十分に周知されているとは言えず、申し出がないことが同意の代わりになるか疑問だ。

 名簿提供に応じた自治体は、防衛・総務の両省からの通知を見た瞬間に思考が停止し「従わなければならない」と判断したとみられる。だが通知は地方自治法に基づく助言でしかなく、従う義務はない。地方自治法によると、自治体の本来の役割は住民福祉の増進を図ることだ。個人情報を慎重に取り扱う責務がある。

 一方、市町村の職員が単独で抵抗するのは難しい。「地方自治」の精神に立脚して住民運動が首長や職員を励ますことが重要だ。福岡市では市民らが個人情報の侵害だとして住民訴訟を起こしている。地道な活動だが、社会を変える可能性がある。
 (行政法)