【記者解説】広く知られていない自衛隊による個人情報入手の事実、社会全体での議論が必要


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 18歳を迎える住民の名簿を自衛隊へ提供する市町村が2021年度に増えた背景には、防衛省が総務省と連名で送った通知や自民党から所属議員を通じた自治体への働き掛けがある。

 19年に当時の安倍晋三首相が自衛隊の募集業務に6割の自治体が協力していないと非難したことを受け、自民党は全所属国会議員に通達し、地元市町村に名簿提供を促すよう要求。防衛省と総務省は20年度、名簿提供が適法だと強調する通知を全国の自治体に送った。その後、全国で名簿を提供する自治体が増えた。

 一方、名簿提供は義務ではなく、首長の判断に委ねられている。実際、県内では大半の自治体が応じていない。名簿を提供している自治体担当者は「閲覧で書き写すのと実質同じ」と釈明する。名簿を提供せずとも自衛隊が市町村に閲覧を申請して情報を取得できる。

 だが、法律上最低限求められている対応を取ることと、積極的に自衛隊に協力して個人情報を提供することには、大きな隔たりがある。6市町村は名簿提供について住民に説明さえしていない。

 そもそも自衛隊が個人情報を入手しているという事実は広く知られていない。例年、勧誘の通知が届いた高校生や保護者から驚きや不快感を示す声が上がる。まず社会全体で情報提供の事実が知られ、議論されなければならない。その上で、市町村に踏み絵を迫ることなく、自衛隊が個人情報や国民感情に配慮した勧誘方法を模索する必要がある。
 (明真南斗)