奇想天外な反基地物語 短編児童小説・比嘉稔さん 琉球新報児童文学賞


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「天使の降る町」で琉球新報児童文学賞短編児童小説部門の正賞を受賞した比嘉稔さん=6月30日、那覇市(又吉康秀撮影)

 第34回琉球新報児童文学賞は、短編児童小説部門が比嘉稔さん(62)=那覇市、創作昔ばなし部門が宮國敏弘さん(65)=宮古島市=にそれぞれ決まった。2人はこれまでの創作活動で培った力を最大限に作品に込め、正賞へとつなげた。受賞の喜びと今後の活動への意欲を語った。

 受賞の知らせに「うれしい」と控えめに話す。短編児童小説部門で正賞に選ばれた比嘉さん。琉球新報児童文学賞には十数年前に何度か応募し、久しぶりの応募で正賞に選ばれた。「人が考えつかないアイデアを重視した、面白いものを書きたい」と創作を続けてきた。

 受賞作は冒頭で「天魔飛行場」に数千の天使が降りてくる。米兵たちも無垢(むく)な天使には手出しできず、基地の運用は止まってしまう。

 このイメージは松任谷由実さんの曲「ベルベット・イースター」を聞き思いついた。「『空がとっても低い/天使が降りてきそうなほど』という一節から、ぱっと浮かんだ」。そこから「大量の天使」に広げていった。

 普段から米軍基地問題や「戦争をなくすにはどうしたらいいのか」と考えてきた。「当たり前のことでは実現しないだろう」との思いが、奇想天外な発想に結びついた。

 物語には沖縄戦のさなかに天使を目撃した「おばぁ」も登場するが、天使の正体ははっきりと示されない。ただその結末も選考委員からは「沖縄戦の体験を語り継ぐ難しさが表れている」と評価された。

 「ある意味、逃げでもあるが、自分でも答えが出せない。すぱっと決めたかったが、悩んだ末の結果だ」と満足していない。今後も「書き続けたい」と前を見据えた。
 (宮城隆尋)