【深掘り】名簿提供していない市町村なのになぜ? 自衛隊から届く封書、その理由とは


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自衛隊が県内の高校生らの自宅へ送っている資料の一部

 自衛官募集のため、県内で宮古島市と名護市、今帰仁村、宜野座村、嘉手納町、伊平屋村が18歳を迎える住民の名簿を自衛隊に提供していることが判明した。この事実を報じた19日、琉球新報には、読者から「6市町村に含まれていないが、封筒が届いたがなぜか」という電話が入った。自衛隊が請求すればどの自治体でも個人情報の閲覧ができるためで、専門家からは情報提供の在り方を問題視する声が上がる。

 名簿を提供している自治体以外に住む高校生にも自衛隊から封筒が届いたのは、自衛隊が請求すればどこの市町村でも、住民基本台帳(住基)で氏名、住所、生年月日、性別を閲覧できる仕組みになっているためだ。

 県内で募集業務を担う沖縄地方協力本部(地本)は人口が少ない一部を除く大半の市町村で18歳を迎える住民の情報を収集している。名簿を提供しない市町村については、地本の担当者が各庁舎を回って住基を閲覧し、持参した用紙に情報を書き写している。

 その情報を基に県内の高校生らの自宅へ勧誘の資料を送付する流れになっている。県民に十分知らされないまま続けられており、例年、保護者らから驚きと不快感を示す声が上がる。

 宜野湾市で暮らす40代の会社員男性は地本に送付の理由を問い合わせたところ、今後は送らない旨の説明を受けた。「本人に確認せず、個人情報を提供するのは間違っていると思う」と憤った。

 自衛隊は高校生らに送る資料で、食事や宿舎が無料で貯金しやすいことなども写真付きで強調する。名護市で暮らすパート従業員の女性(48)は「勝手に個人情報が提供されるのは、気味が悪いと感じた」と語った。業務の内容以上に三食無料などが強調されていることに「足元を見られているのかな」と疑問を呈した。

 苦情や問い合わせは各地本にも寄せられているが、防衛省は件数などを集計していない。担当者は「その都度、経緯を丁寧に説明する。個別に対応している」と述べるにとどめた。

 自衛隊が請求すればどの自治体でも個人情報の閲覧が可能だが、義務ではない。関心がない人も含めて個人情報を一括で取得する現在の方法ではなく、希望者が集まる形で自衛官を採用する事はできないのか。岸信夫防衛相は22日の記者会見で問われ「対象者や保護者に職業としての自衛官を正しく理解していただくために募集案内を送付している。自治体からの情報提供が必要不可欠だ」と答え、現在の方法を続ける方針を示した。

 沖縄大の高良沙哉教授(憲法学)は閲覧を含めて自衛隊への情報提供の在り方を問題視する。「形式的には法律で認めたとしても、憲法では、個人の情報はその本人に属している。自衛官募集は緊急性がなく、本来、本人の同意を得るという正当な手続きを取らずに情報を提供してはいけない」と指摘した。
 (明真南斗)

※注:高良沙哉教授の「高」は旧字体