prime

関心高まる政教分離 信教の自由も民主主義<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
佐藤優氏

 安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件をきっかけに政治と宗教の関係に関心が集まっている。<「母親が入信し、教会への献金で生活が苦しくなった。恨んでいた」。安倍元首相の銃撃事件で殺人容疑で送検された山上徹也容疑者(41)は、奈良県警の調べにこう供述し、宗教法人「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」と近いとみた安倍氏を狙ったとの趣旨の説明をしている>(24日「朝日新聞デジタル」)ことが影響している。

 立憲民主党は同党所属議員と旧統一教会の関係について調査を始めた。<世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政界の関係を解明する動きが25日、野党で拡大した。立憲民主党の西村智奈美幹事長は、霊感商法の実態などを調べる「被害対策本部」の初会合で、旧統一教会と党所属国会議員の関係を巡る調査に着手する方針を表明。保守系議員と旧統一教会の接点が取り沙汰される中、自民党の対応も問われる。/初会合には、旧統一教会の活動に詳しい有田芳生氏が講師として出席し「目に見えているのは霊感商法や献金被害だが、全体像を見なければならない」と強調。信者が多額の経費を使い、夫婦別姓や同性婚を認めないよう自民議員にロビー活動をしているとも指摘した>(25日本紙電子版)

 宗教団体に限らず、政党、企業、労働組合などであっても、違法行為や脱法行為はもとより社会通念に著しく反するような行為があれば、それが批判されるのは当然だ。報道されているような、山上容疑者の母親が旧統一教会に1億円以上の献金をした結果、破産し、家族が苦しい状況に陥れられたということならば、そのような事態を引き起こした教団は社会的に厳しく批判されなくてはならない。

 他方、日本の宗教団体は財政的には信者の献金に頼って運営されている。筆者は日本におけるプロテスタント最大教派の日本基督教団に所属しているが、毎週日曜日の礼拝だけでなく、毎月一定額の献金をしている。またクリスマス、イースター、誕生日などにも特別の献金をしている。教会建設のために多額の献金をしたり、土地を寄贈したりする信者もいる。信者が自らの意思に基づいて献金する権利が保障されていなくては、信教の自由も宗教団体の自主的運営も実質的には担保されなくなってしまう。

 日本国憲法第20条1項は∧信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない∨と定めている。いわゆる政教分離原則だ。

 政教分離原則については二つの考え方がある。第1は、旧ソ連、現在の中国や北朝鮮がとっている解釈だ。宗教は内面的信仰に限定され、政治に関与すべきでないとする。第2は米国や日本などでとられている考え方だ。政教分離原則は国家が特定の宗教や宗教団体を優遇もしくは忌避することを禁止したもので、宗教団体が自らの価値観に基づいて政治活動を行うことを認めるという考え方だ。ドイツにはキリスト教民主同盟のような宗教的価値観を基盤にした政党が強い影響力を持っている。

 宗教団体に対する感情的非難が行きすぎると、信教の自由の基盤を崩し、日本の民主主義体制を弱めることになる。

(作家、元外務省主任分析官)