全国の高校生が北海道の大自然を舞台に写真の腕を競い合う「写真甲子園2022」本戦が、7月26~29日に開催された。エントリー総数過去最多の533校から18校が本戦に出場。県内からは、前回優勝校で3年連続本戦出場の沖縄工業と、4月に同好会を立ち上げたばかりの嘉手納が出場した。“技巧の沖縄工業”と、スマートフォンカメラの撮影が中心の“マフォトグラファー嘉手納”。全く異なるチームカラーの両校は、戦術も両極端。互いに優勝を目指し、時には励まし合いながら、最後は準優勝(沖縄工業)、優秀賞(嘉手納)を勝ち取った。熱戦が繰り広げられた4日間の両校の舞台裏を紹介する。 (嘉数陽)
<沖縄工業>準優勝 光と影見つめ 支え合い絆固
7月26日の大会開会式。前回優勝した沖縄工業高校は、3年で部長の平良有理佳さん(18)が登壇し、優勝旗を返還した。絶対持ち帰る―。ライバルが鋭い視線を向ける中、平良さんは優勝旗をにらむように見詰めた。
「人物写真を撮る。暮らしや体温を感じられる写真を撮ろう」。人の生活には、光も影もある。影をどう生かすか。仕事や家族の話を聞きながらシャッターを切った。会話の速度を合わせ、その場の雰囲気に溶け込み、素の表情を狙った。被写体から離れると険しい表情に戻り、他の選手に先手を打たれないよう機材を持って走った。日中は25度前後。日差しは沖縄より柔らかいが、田園地帯は日陰が少ない。真っ黒に日焼けした。
3日間の撮影会は連日2~3カ所を回る。早い日は午前6時開始だった。3人は開始時間より早くから地域を回り、その土地の暮らしを理解しようと努めた。消灯は午後11時。光の露出加減や撮影地点を細かく確認した。
平良さんは日に日に話さなくなった。ファイナル審査前、「狙い通りの光加減で撮れた」と言いながらも不安げだった。「絶対大丈夫」。2年間共に活動してきた小林沙樹さん(16)は、平良さんを励まし続けた。考えごとをして声が届かない様子の時は手を握った。屋比久樹里さん(16)は「ほんとは参加できるはずじゃなかったから」と遠慮がちだが、毎日2人のやり取りをじっと見詰め、最後は2人をうならせる写真を撮ってみせた。
「優勝しかいらない」。その思いは一歩届かず、結果は準優勝。533校中2位の成績にも、閉幕後は泣き崩れた。小林さんと屋比久さんは来年の雪辱を誓い、卒業する平良さんは落ち着きを取り戻した後、カメラに打ち込んだ3年間を振り返った。「写真は人とのつながりを深める。帰ったら、クラスメートを撮りたいな」と言って、小さく笑った。
<嘉手納>優秀賞 自らを被写体 はじけた初舞台
「(立木義浩)審査委員長の言葉聞いた? スマホで撮ったような写真が見たいって」。開会式での審査委員長の言葉に、にやりとした嘉手納高校3年の岸良愛天音(あてね)さん(18)。「それしかできないよね」と、3年玉城樹希弥(じゅきあ)さん(18)と2年眞榮田愛梨さん(16)が「くくくっ」と笑った。
4月、写真甲子園を知って仲のいいメンバーで同好会を立ち上げた。ウエイトリフティングや生徒会など、3人全員が他の活動と掛け持ちしている。カメラの技巧は「ゼロに等しい」が、「コロナとか関係ない。高校生活はめちゃくちゃ楽しい」と、スマートフォンでキラキラした毎日を記録し続けてきた。
撮影初日、上富良野町と美瑛町(びえいちょう)で、北海道の大自然に大はしゃぎしながら、満喫している私たちを見てと言わんばかりに自らも被写体にした。
沖縄では見られない、田園地帯の真っすぐな道路で、何度もジャンプして写真を撮った。その日のファースト審査会。いくつかのグループが技術の甘さを酷評された。「やばい」と体をこわばらせたが、底抜けに明るい作品に「ただ者じゃないね」と称賛され、自信がついた。同時に、優勝への思いが強くなった。
撮影会2日目、旭川市を回る3人の表情は暗かった。「撮りたいと思うものを撮りたい。建物の圧迫感があって、楽しい気持ちになれない」(玉城さん)。休憩しながら体力を温存し、午後の撮影に臨んだ。しかし「どう撮っていいのか分からなくなった」(眞榮田さん)と、練習量の差がここで出た。蓄積された疲労はチームの不協和音にもつながり、期待が高まった状態でのファイナル審査は「元気なくなったね」と見抜かれた。
結果は優秀賞。カメラを持ち始めたばかりのチームで一大快挙であるが3人は苦笑いだった。それでも閉幕後は「やるだけやったな」と笑い合い、他チームと抱き合って健闘をたたえ合った。