「はいたいコラム」 ヤギの多面的な活用


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 みなさ~ん、はいたい~! ちょっと変わった里山風景を見に、岐阜県美濃加茂市へ行ってきました。山あいに車で案内され、なだらかな山の斜面に目を凝らすと、白く動いているあの動物は…ヤギです。16頭のヤギが放牧され草を食べていました。

 美濃加茂市では市と岐阜大学と農業生産法人フルージックの三者が共同でヤギの研究をしています。「山羊さんと除草隊・緑の絨毯(じゅうたん)計画」というもので、耕作放棄地や人が除草しにくい斜面を喜んで駆け回り、あらゆる草を食べてくれるヤギ活用の可能性について、5年計画で調査しているのです。研究結果もさることながら、自然の中で悠々とヤギたちが草をはむ様子を見ていると、それだけでのどかな気持ちになりました。
 美濃加茂市は峠越えで知られる中山道の通っていた地域。傾斜の多い地形にヤギは重宝され、ほかにも市の管理する公園や、太陽光パネルの下草など活躍の場は増えています。
 また、隣の関市にあるブリヂストンの広大な工場の緑地にはおよそ20頭のヤギが定期的にトラックで出勤し、草刈り業を請け負っています。そばに人がついてヤギの管理をし、食べ残した雑草は機械で刈るため、企業は安心して任せられる仕組みです。生き物ゆえの心配も、実際始まってみると、従業員が昼休みにヤギと触れ合う癒やし効果や、近隣の人が聞きつけて見に来たり、空き缶の投棄が減ったり、思わぬ福利や効果を呼びました。
 グローバル企業におけるCSRはますます重要視されています。企業の社会的責任と訳されますが、義務よりむしろ企業だからこそ果たせる役割として前向きにとらえる方が、時代に歓迎されます。殺風景な工場ののり面が観光資源になるなんて絶好の話題です。ヤギを見た子どもは将来きっと同社の商品に親しみを持つでしょう。体験がブランドになるのです。
 沖縄ではみんな大好きなヒージャーですが、昔は日本全国にいたヤギ文化を思うと、多様な活用にも価値がありそうです。ヤギが草を食(は)む緑地に囲まれた工場と、見栄えだけ飾るような会社があったなら、どちらが環境にやさしくて、性格が良さそうでしょう。企業も性格で選ぶ時代です。もちろん、もしどうしてもおいしそうで我慢できなくなったらその時は、めえめえの判断で大丈夫です。
 (フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)