国境の島、偶発的な軍事衝突に懸念高まる EEZに中国ミサイル、演習区域は与那国島の漁場から50キロ 1996年の「台湾海峡危機」では出漁制限


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 ペロシ米下院議長の台湾訪問に伴う中国軍の軍事演習が始まり、偶発的な軍事衝突の可能性が高まっている。中国軍は4日に軍事演習を開始し、弾道ミサイルの発射訓練を実施。防衛省の発表によると与那国島北西の訓練区域などに着弾し、一部が日本の排他的経済水域(EEZ)内に落ちた。台湾周辺では1995~96年の台湾海峡危機でも、中国軍がミサイル演習などを実施し、米軍が周辺海域に空母を派遣する事態となった。この時は台湾と隣接する与那国町の漁業者が中台の軍事演習の頻発で出漁制限に追い込まれるなど、県民生活にも影響を与えてきた。

 95~96年の台湾海峡周辺での中国の軍事演習は、96年3月の台湾総統選挙に至る一連の動きをけん制する意図で行われた。中国軍は与那国島から約60キロ北西の海域にも弾道ミサイルを撃ち込んだ。中国軍の軍事演習に呼応する形で実施された台湾側の訓練区域の一部は、与那国島周辺の漁場とも重なった。当時、沖縄本島と台湾を結んでいた航空路・航路もルート変更を迫られた。

 県は日本政府に複数回要請書を出し、しかるべき対応を中国側に働きかけるよう求めた。当時の大田昌秀知事は中国軍のミサイル演習について「県民に不安を与えるもので看過できない」と強調していた。与那国町は台湾側にも、近海での軍事演習の自制を求めた。

 中国軍は今回の軍事演習で、与那国島北西に訓練区域を設定した。96年当時の訓練区域に類似する区域となっている。中国軍は4日に軍事演習を開始し、弾道ミサイルの発射訓練を実施。防衛省の発表によると与那国島北西の訓練区域などに着弾し、一部が日本のEEZ内に落ちた。今回も米軍は周辺海域に原子力空母や強襲揚陸艦を派遣している。

 今回の中国軍の演習では、与那国町の漁業者の漁場から約50キロ離れた場所で実施されており、射撃音などは確認できなかったという。一方、防衛省が日本のEEZ内への中国軍ミサイル落下を発表した4日夜、県は情報収集を進めた。
 (塚崎昇平、西銘研志郎)