米中間の台湾を巡る対立について、1996年の海峡危機当時との相違点が目立つ。90年代は台湾の民主化・独立志向を中国が威嚇し、米国が対応する構図だった。今回の米中間の緊張は米国側の行動が発端となっている。大統領・副大統領に次ぐ米国要人が台湾を訪問すれば「一つの中国」問題をセンシティブに捉える中国側の反発を招くのは必然だ。
人権派の下院議長訪台は中間選挙に向けた思惑や自身の政治活動上の意義もあるのだろうが、合理的な判断とは言えない。90年代の危機以降、中国側の経済成長を背景に海軍力や中距離ミサイルの強化が進み、両国間の軍事力の差は縮まった。偶発的な軍事衝突をコントロールできなくなる危険性は増したと言える。
90年代以降、日本側では南西諸島での自衛隊配備が進んできた。米軍による自衛隊基地の共同使用や中距離ミサイル配備も議論されている。ロシアのウクライナ侵攻などを受け、防衛力強化の必要性に賛同する世論も、こうした動きを後押ししている。
だが、米中両国が危機をコントロールしようとしている時、対米協調一辺倒の日本の安全保障政策では、偶発的な衝突に巻き込まれたり、緊張を高めたりするリスクにしかならない。信頼醸成を旨としコミュニケーション・チャンネルを活性化させた協調的な安全保障政策が必要だ。
(国際関係学)