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アムネスティの釈明 不当な「人間の盾」戦術<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 アムネスティ・インターナショナルは、1961年に発足した世界最大の国際人権NGOだ。このNGOが、4日にプレスリリースを発行し、アムネスティ・インターナショナルの専門家がウクライナの19の居住地区で、ウクライナ軍が住宅から攻撃を行ったことを確認したと発表した。ウクライナのゼレンスキー大統領は、この発表に激しく反発したのに対してアムネスティ・インターナショナルはこう釈明した。

 <ウクライナ軍の戦い方が、市民を巻き添えにしかねないとの調査報告書を公表した国際人権団体が7日、一転してウクライナに「深い遺憾の意」を表明した。ロシアから侵攻を受けている事情をくんでいないとして、ウクライナのゼレンスキー大統領らが猛反発していた」(中略)同団体のウクライナ代表も「ウクライナ国防省の立場を考慮に入れる必要がある」と報告書を批判。「この調査はロシアのプロパガンダの道具になっている」と抗議して辞任する事態に発展した。

 同団体は7日、報告書がウクライナ側に「苦しみと怒り」をもたらしたとする声明を公表。「我々の唯一の目的は、市民が保護されることだった」と理解を求めた。「調査で訪れた19の街や村で、ウクライナ軍は民間居住地のすぐ隣にいた。市民がロシア軍の砲撃にさらされる危険があった」とした上で、「我々の報告書は決してロシアによる(人道法)違反行為を正当化するものではない」とした。>(8月8日「朝日新聞デジタル」)

 アムネスティ・インターナショナルは前言を撤回していない。「調査で訪れた19の街や村で、ウクライナ軍は民間居住地のすぐ隣にいた。市民がロシア軍の砲撃にさらされる危険があった」という事実については譲っていない。インテリジェンス専門家が情勢を分析する際には事実と認識と評価を区別する。本件に即して考えてみよう。

 事実―アムネスティ・インターナシナルが調査した19カ所では、ウクライナ軍は民間居住地の隣にいた。事実は立場が異なっても認めなくてはならない。認識はそれぞれ分かれる。

 認識―(その1)19カ所は例外的状況で、他の場所でウクライナ軍は民間居住地と隣接した場所に兵員や武器を配置していない。(その2)19カ所は氷山の一角で、ウクライナ軍が民間居住地と隣接した場所に兵員や兵器を配置し「人間の盾」戦術は常態化している。その他にもさまざまな認識があり得る。認識によって評価も異なってくる。

 評価―(その1)ロシアの侵略に直面し、一部地域でウクライナ軍が民間居住地と隣接した場所に兵員と武器を配置したのはやむを得ないことで、基本的にウクライナの対応を非難すべきではない。(その2)ウクライナ軍の対応は民間人を「人間の盾」とする国際人道法に違反する手法で、非難されるべきものだ。

 筆者は、アムネスティ・インターナショナルの報告だけでなく、キエフを訪れた複数の記者による報道などを総合し、ウクライナ軍は、沖縄戦における日本軍をほうふつさせるような「人間の盾」戦術を広範に取っていると認識している。このことは、民間人の犠牲者をいたずらに増やすことになるので、正当化されないという評価をしている。そのこととロシアの侵略を是認することとは、まったくつながらない独立の事象だ。ロシアの行為はウクライナの主権と領土の一体性を毀損(きそん)する国際法違反である。

(作家、元外務省主任分析官)