米軍の部品落下にPFAS流出…動かぬ基地、暮らしはどこへ ー宜野湾市の現状と課題まとめー 9.11市長選


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 【宜野湾】9月11日投開票の宜野湾市長選には、2期目を目指す現職の松川正則さん(68)と「9・29県民大会の会」会長で新人の仲西春雅さん(61)が立候補を表明し、一騎打ちとなる公算が大きい。米軍普天間飛行場の移設・返還問題や健康増進、市街地活性化など、市の課題をまとめた。(新垣若菜)
 


米軍普天間飛行場 返還合意26年 続く負担
 

 街の中心部に位置し「世界一危険な基地」と呼ばれる普天間飛行場。約480ヘクタールの広さは市面積の25%を占める。日米両政府が1996年に全面返還合意して26年が経過する。当初に示された普天間の返還時期「5~7年」はとうに経過し、返還を待つ間に事件や事故が繰り返されてきた。

街のど真ん中に位置し、住宅地に囲まれるようにある米軍普天間飛行場=2021年12月(JTA機より撮影)

 2004年8月には米海兵隊のヘリが沖縄国際大学に墜落。16年12月に同飛行場所属の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが名護市安部に墜落したほか、17年12月には緑ヶ丘保育園と普天間第二小に米軍機の部品が落下した。昨年11月はMV22オスプレイから水筒落下事故もあった。

 騒音被害も深刻で、市に寄せられた苦情件数は20年度が過去最高の759件で、21年度が517件、22年度は7月末時点ですでに135件に上っている。夜間も騒音が確認されている。日米が合意した航空機騒音規制措置で、午後10時以降の飛行は制限されているが、形骸化している状態だ。

 県も国も普天間飛行場の危険性除去については「喫緊の課題」との認識で一致している。だが、「唯一の解決策」として辺野古移設に固執する国に対し、県は埋め立て工事の不確実性を訴え、移設の見直しを迫る構図が続く。

 19年に辺野古の埋め立ての賛否を問うた県民投票では、反対が7割を占め、賛成の2割を大きく上回った。宜野湾市民の結果も同様に反対が66.8%で賛成の24.36%を大きく上回った。


PFAS 基地外流出、市民に不安
 

 米軍基地が由来とされる有機フッ素化合物PFAS。国の暫定指針値50ナノグラムをはるかに超える値が普天間飛行場内では検出されている。2020年には、米軍普天間飛行場からPFASを含む、泡消火剤が流出した事故もあった。県の調査で市内の河川から高濃度のPFASも検出されている。汚染水の基地外流出などによる土壌への蓄積の懸念もあり、市民生活に影響を及ぼしている。

米軍普天間飛行場から流出し、住宅地に迫る泡消火剤=2020年4月、宜野湾市大謝名

 2020年4月、基地内での海兵隊員によるバーベキューで格納庫内の消火装置が作動し、最大で6万ガロン(約22万7124リットル)の泡消火剤が流出した。多くが基地外に放出され、宜野湾市内の民間地にあふれ出した。またこれより先に16年に米軍が宜野湾市の普天間飛行場内で実施した調査では、国の暫定指針値の576倍に当たるPFASが検出されたことが本紙の取材で分かっている。検出場所は基地フェンス付近と水路でつながっている可能性も示され、汚染水が基地外へ流出した恐れもある。

 21年には米軍がPFASを含む汚染水を処理して、公共下水道へ放出することもあった。市議会は同年7月、汚染水を基地外へ放出しないよう求める決議や意見書を全会一致で可決していた。松川正則市長も放出に「大変遺憾」などと反発している。

 一方で、これまでも基地周辺の湧き水などで高濃度PFASが検出されているが、市は「(基地からの汚染を)特定できる根拠が示されていない」として踏み込んだ施策を打ち出せていない。


医療 特定健診 7割が未受診

 

 1964年に県下初の「健康都市宣言」をした宜野湾市だが、市民の特定健診受診率の低さが課題となっている。約7割が未受診で、2016年~19年は4年連続で県最下位だった。市では受診率向上を図り、健康づくりの意識を高めようとさまざまな取り組みを展開している。

 市の国保財政は医療支出増加と被保険者減少で収入が不足し、12年度から9年連続の赤字決算が続く。20年度の累積赤字は11億4千万円。高齢化や生活習慣病の重症化による入院・手術などの医療費の増大が一つの要因となっている。市によると、健診未受診者の治療費は年間4万8030円で、健診受診者の治療費(4927円)の約10倍。

 市では、受診率が県内市町村で4年連続最低だったことなどを受け、特典付与により受診率向上を図る。22年度からは、「GO!GO!とくとく特定健診キャンペーン」と題して、受診した40~74歳の国民健康保険の加入者全員を対象に3千円相当の商品券を贈る特典を企画。受診率を上げることで国保加入者の健康増進を図り、国保財政の健全化につなげることを狙いとする。19年度から導入した人工知能(AI)を活用した受診勧奨通知の取り組みも継続。24年までに受診率50%を目標にする。


西普天間住宅地区 進む開発、文化財問題も

 

 2015年に返還された米軍キャンプ瑞慶覧の跡地である西普天間住宅地区。約50.8ヘクタールの跡地は沖縄の発展に大きな役割を果たす「拠点返還地」に位置付けられ、琉球大学病院移設工事などが始まり、活用に向けた計画が進む。土地区画整理事業は27年終了予定で総事業費113億円(19年12月時点)を見込んでいる。

 14年の市の「跡地利用基本計画(案)」では、琉球大学医学部・同付属病院を中心とする「国際医療拠点ゾーン」、普天間高校の移設を想定した「人材育成拠点ゾーン」、地権者の土地利用を想定した「住宅等ゾーン」を打ち立てた。一方で、普天間高校の移転計画は県の買い取り開始の遅れで地権者からの土地取得が進まず、18年4月に頓挫。その後、人材育成拠点ゾーンを住宅等ゾーンへと変更している。19年3月からは跡地利用計画を踏まえた土地区画整理事業を開始している。

 一方で、跡地開発が進む中で、新たな課題にも直面。21年には跡地で琉球王国時代の中頭方西海道の一部「喜友名・新城の宿道」と土地測量のための図根点「印部土手石」が見つかった。沖縄考古学会が「学術的に極めて重要」として現地保存を求めたが、市は印部土手石に隣接する幹線道路の建設が同年度に着工しているため「現地保存は厳しい」としている。

 市が検討する景観計画では、現在の景観資源である眺望、自然、歴史文化財を新しい街に調和させ、地区独自の景観を保全・創出するとしているが、課題も残る。市は印部土手石を移動し、市博物館での展示を予定しており、「将来的に現地復元による公開活用を視野に検討を進める」などと説明している。