<書評>『貧困理論入門』 「自由の欠如」克服には


社会
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『貧困理論入門』志賀信夫著 堀之内出版・2200円

 「貧困とは何か」と聞かれたとき、真っ先に手渡したい。そんな入門書が登場した。

 本書は6章構成からなり、手始めに貧困にまつわる言葉を解きほぐす(1章)。その上で、学説史に即して「貧困=あってはならない生活状態」の概念が拡張する過程を概観し(2~4章)、現在の貧困理解(5章)とその克服へ射程を伸ばす(6章)。

 一般的におなじみの貧困理解とは、貧困には二つあり、「所得の欠如」によって肉体的生存が脅かされる「絶対的貧困(2章)」と、「社会参加」が可能な生活水準が剥奪された「相対的貧困(3章)」があり、先進諸国における「貧困」とは後者だというようなものだろう。しかし、読者はすぐにこのような貧困理解が、いかに単純化されたものであるかを思い知らされる。

 現在の貧困には、特定のひとびとの「自由・権利」を認めず、この社会から仲間外れにするという「社会的排除(4章)」が加わる。ひとが社会参加を「自己決定」できるには、選択可能な「自由」の広さ(選択肢)が必要で、この自由の範囲が「権利」であり、この「権利」を持つ人々のことを「市民」と呼ぶ。このような理解から導き出される現代日本の貧困とは「自由の欠如」(5章)に他ならない。

 それでは、貧困をどのように克服すべきか? この疑問はすでに副題で明かされている。すなわち「連帯による自由の平等」を実現することだ。その連帯の必要条件として本書が期待するのが、「資本―賃労働関係」を見直すための「階級的視点」であり、「労働者階級」の形成だ(6章)。

 著者は、マルクス理論を基軸に資本主義と階級を問い直す貧困理論の若手研究者であり、生活困窮者支援のNPOで理事を務める実践家でもある。読者の理解を深めるべく、生活保護切り下げ訴訟(2章)、アニメ版サザエさんとちびまる子モデル(3章)、車椅子ユーザーの移動と自由(4章)、沖縄の基地問題(5章)が例示される。そのおかげで、読者は小難しい前半部の理論は「こういうことか!」と膝を打つだろう。

 (糸数温子・一般社団法人ダイモン代表理事)


 しが・のぶお 県立広島大准教授、NPO法人結い理事。主な著書に「貧困理論の再検討」、共編で「地方都市から子どもの貧困をなくす」「ベーシックインカムを問いなおす」など。