公共交通はどう変わる?南北間の鉄軌道導入で発展 下里哲弘氏(琉球大工学部教授)<識者の視点・沖縄県知事選22>③


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下里哲弘氏

―県内の交通インフラが抱えている課題は。

 「戦後、沖縄は車社会だったアメリカの統治下で、道路が優先的に整備され車社会に変化した。その歴史から、那覇市内では全国ワースト1の交通渋滞が今でも解消されていない」

 「那覇から名護などの長距離移動の際には、速達性を持った交通機関として沖縄自動車道があるが、ヒトやモノを一度に大量に運ぶ輸送力はない。人流・物流移動の時間損失は経済的なデメリットにもつながる」
―課題解決策として、いずれの候補者も名護までの鉄道延伸を政策で掲げている。

 「政策面の方向性は3氏とも共通している。バスは渋滞に巻き込まれるなど定時性に劣り、モノレールは速達性で劣ることから那覇―名護1時間の目標を達成するには非現実的だ。そのため定時性・速達性・輸送力で有利な鉄道導入は自然の流れで、県の経済振興にとっても必要だ」

 「一方で3氏とも名護までの延伸を掲げているが、建設コストと開業後の収益予想のバランスで課題も残っている。鉄道はまず中部までの成功が必要であり、状況に応じて名護方面に順次延伸するなど、柔軟な検討も必要だ」

―鉄軌道導入によって沖縄はどう変わるか。

 「自治体と連携した駅づくりと街づくりの一体化によって、街に人が集まることが期待できる。さらに鉄道利用の促進を目的に、通学利用者や高齢者の無料化を実施するとともに、地域で利用できるポイントを付与することで、地域経済を活性化することも可能だ」

―鉄軌道整備で次の知事に求めることは。

 「各候補の政策では重点して投資する項目がはっきりしていない。まずは一丁目一番地として、基軸となる本島縦貫の鉄軌道導入に集中し、採算性のとれた段階で延伸する方針とするべきだ。南北間の鉄軌道導入は東西間の交通体系の発展にもつながる」

 「定時性・速達性・輸送力を満たす、那覇―名護間1時間の公共交通システムの達成は、第6次振興計画で求められている『日本の経済成長のけん引役』という沖縄の将来像の実現のためにも重要な政策だ」

(社会基盤工学)