1996年4月に米軍普天間飛行場の返還が日米で合意されて以来、移設の是非は県政最大の課題となっている。名護市辺野古への移設を巡っては自公候補が「容認」の立場を表明。反対を掲げる「オール沖縄」勢力、訓練移転を掲げる候補との論戦が繰り広げられている。
結婚を機に72年から大浦湾を望む場所に住んでいる女性(82)は、海を眺める心境が昔と今とで大きく変わった。以前は「辺野古の浜で大きなハマグリを取っていた。子どもが遊ぶきれいな海を眺めるのが好きだった」。今、その海に埋め立て作業を行う船が大挙する。「海にビルが浮かんでいるみたい。見ると苦しくなる」
8月23日、女性を含む辺野古周辺住民ら20人が那覇地裁に新たな訴訟を起こした。仲井真弘多元知事が埋め立てを承認した後、大浦湾側に軟弱地盤があると発覚。大規模な地盤改良工事が必要で、防衛局は設計概要の変更を申請した。ことし4月、県が不承認とし、国が対抗措置を取るなど、対立が続く。
原告の男性(65)は「基地ができると『第三者行為論』で訴えが届かなくなる。将来の被害が分かっていながら、無視するような司法であってほしくない」と強調し、「私たちは諦めない。何度でも訴える」と不退転の決意を口にした。
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「容認せざるを得ないでしょう」。辺野古で生まれ育った飲食店経営者の男性(37)は、返還合意後の26年間を振り返り、ため息をつく。「民主党政権が反対しても、翁長(雄志)知事が反対しても、稲嶺(進)市長が反対しても、埋め立ては進んだ。望んでいるわけじゃないが、止められない」
辺野古周辺にはヘリパッドがあり、現在も集落上空をオスプレイが飛ぶ。「午後10時以降も騒音でうるさい。夜間の飛行禁止は守られていない」と米軍の運用に憤り「代替施設を沖に造り、ヘリパッドを撤去してもらう。それも容認する条件の一つだ」と説明する。
住民が親しんできた辺野古沖の無人島・平島は、護岸工事が進んで海岸から見えなくなった。男性も子どもの頃、家族で遊んだ場所だ。きれいな海が埋め立てられる心苦しさは感じる。「(基地を)沖に出せば集落上空は飛ばない。やっぱり人の命が大事だ。仕方がない。国と国が決めたことだ」と語った。
「仕方がない」と「諦めない」。住民は同じ海を見ながら、別の思いを抱く。
(稲福政俊)
11日投開票の知事選は米軍基地問題や新型コロナウイルス対応などを争点に、論戦が展開されている。暮らしの現場から県政の課題を見た。