「マームとジプシー」(藤田貴大主宰)が那覇文化芸術劇場なはーとで8月20日と21日、演劇「cocoon」(藤田作・演出、原田郁子音楽)を上演した。同作は「ひめゆり学徒隊」に着想を得た今日マチ子作の同名漫画が原作。2015年の沖縄初上演以来7年ぶりの公演では、史実によるせりふと、戦場で生成、増幅される「男性性」の描写を加えて、沖縄戦を立体的に表現した。20日の夜公演を取材した。
女学生のサン(青柳いづみ)が沖縄戦下、幾人もの同級生の死を経験し、生きていく決意をするまでの姿を描く。全5章に二つの幕あい劇を加えた構成で、上演時間は150分。
沖縄戦が主題だが、やがて戦地に動員される女学生たちの、学校での日常を描く「第1章 学校」に、最も長い50分が費やされた。女学生たちが、校舎を飛び跳ね、身だしなみや愛犬のことなど、たわいない会話をする。1945年1月の空襲で校舎や寄宿舎が破壊される描写の後も、学生たちはいつもの会話を続ける。同じトーンの会話に表れる「陣地構築」や「戦意高揚」などの単語が、日常の延長に忍び寄る戦争の不気味さを感じさせた。
1章では、複数の木枠や白いゴムひもを組み合わせ、教室や廊下、運動場が表現された。白く明るく、優しい音楽が流れる空間で、時間の流れまでも可視化させようとするように、役者は絶えず動き回った。
「第2章 洞窟」では、舞台に闇が押し寄せた。優しい音楽に代わり、雨や滴のはねる音が響き、1章で窓を表現していた木枠も舞台から消える。聴覚と視覚の両面で、女学生たちが抱いたであろう、光の差さない洞窟の息苦しさを共感させた。対馬丸に乗って沖縄に来てからの道のりを語り出す兵隊、女学生に向けるみだらな視線を言葉にする兵隊など、男の低くつぶれた声がこだました。
終演後に藤田は「あいまいなとらえ方がされがちな沖縄戦のイメージを、沖縄以外の人の中で更新されるように、全編にわたり史実に基づいた話を心掛けた」と演出の狙いを話した。「沖縄の観客は、明らかに本土の人より沖縄戦について知っていることが多く、熱量が違い、言葉の届き方が違った」と語った。
劇中、女学生らは「私」ではなく「私、私たち」と自身を呼び、終章でサンは「あの時間に戻ることはできない、くりかえさない」「忘れないよ。だから生きていくことにした」と声を張り上げる。物語と演出に、薄れていく戦争の記憶を観客と共有し、心に刻み込ませようとする強い意思を感じた。
(藤村謙吾)