【記者解説】沖縄の地価2.7%上昇、人流や入域客の回復が土地需要を押し上げ 円安、人手不足で停滞の恐れも


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32年連続で県内最高価格地点となった那覇市松山1の1の14=20日

 7月1日時点の県内地価(基準地価)では、住宅地、商業地、全用途ともに平均変動率はプラスを維持した。全国平均でも住宅が31年ぶりに上昇に転じた。2020年の新型コロナウイルス感染症流行から3年目を迎える中で経済活動は再び動き始め、土地需要も回復の動きを見せている。

 県内の基準地価は全用途、住宅地、商業地共に前年同期比で上昇幅が拡大し、新型コロナウイルス禍から持ち直しの動きを印象づける結果となった。経済回復への期待感の高まりが土地取得意欲を喚起したと見られる。一方でコロナ収束の見通しは依然不透明で、原油・原材料の高騰、人手不足といった要因もあり予断を許さない状況が続く。

 感染対策と経済活動を両立させたウィズコロナが定着し需要回復の兆しが見え始めている。行動制限がないことから人流が戻り、7月の入域観光客数は前年同月比2・4倍の60万7800人と、3カ月連続で前年同月比の増加数が過去最多を更新した。観光産業を始め、百貨店・スーパーなども売り上げが伸びている。コロナ禍でも県内では人口増加や旺盛な起業マインドが地価を底支えしていたが、さらに人流や入域客の回復が土地需要を押し上げている。

 ただ、基幹産業の観光業はインバウンド(訪日客)の本格的な回復がいつになるのか、不透明なままだ。さらに昨年から続く原油や原材料の高騰に加え、今年に入ってからは円安が加速している。企業収益が圧迫されれば、商業地での新規出店などの投資が鈍化し、雇用者の所得が伸び悩むことで住宅地も含め土地取得への意欲が停滞する恐れもある。

 特に問題は人手不足だろう。沖縄労働局の7月の主要産業別新規求人数(原数値)では、生活関連サービス業・娯楽業が前年同月比58・2%増、宿泊業・飲食サービス業も同44・9%増と大幅に増えた。ホテルでは人手が足りずに客室稼働率を制限したり、従業員が業務の兼任や残業をしたりして対応に当たる事例も増えているという。

 人手が足りずに需要に応えきれない状態が続けば、生産性は上がらず地価にも影響を与える。本格的な回復に備え、DX(デジタルトランスフォーメーション)による業務の効率化や、障がい者の雇用促進などをさらに強力に推し進めていく必要がある。
 (小波津智也)