今月上旬のウクライナ軍の攻勢によってハリコフ州の大部分がウクライナの実効支配下に入ることになった。ロシアはこの攻勢が米国による全面的協力によって実現したと見ている。軍事衛星で得た情報を提供するのみならず米英軍の特殊部隊員が傭兵(雇い兵)としてウクライナ軍に参加し、前線を突破したというのがロシアの認識だ。ロシアは特別軍事作戦という法的枠内を維持しつつ、戦いの構図を変化させようとしている。
<ロシアのプーチン大統領は21日、ウクライナ侵攻を巡り国営テレビを通じて演説し、部分的な動員を可能とする大統領令に署名したと表明、即日発効した。対象は軍務経験のある予備役に限定する。ショイグ国防相は同日、部分動員の対象は30万人規模と説明した。ウクライナ軍が東部や南部で反攻を強める中、動員令で劣勢打開を図る狙いだ。/ロシアが大部分を制圧したウクライナ東部や南部の計4州で、親ロシア派がロシア編入を求める住民投票を23~27日に実施すると決めたことについて、プーチン氏は「住民投票の安全な実施のために最善を尽くす」と支持する考えを示した。>(21日本紙電子版)
上述のウクライナの領域がロシアに併合されてもウクライナや西側諸国はこれらの領域がロシア領になったとは認めない。ロシアもそのことはよく分かっている。ただし、併合が実現すれば、これら領域はロシアの主権下に入ることになるというのがプーチン氏の論理だ。これらの領域に対するウクライナ軍の攻撃をロシアは自国領に対する攻撃と見なし、「祖国防衛」のために軍最高司令官であるプーチン大統領が新たな措置をとることを可能にする。
14日、筆者はテレビ電話でモスクワにいるロシアの政治学者アレクサンドル・カザコフ氏(与党「公正ロシア」幹部会員[非議員])と意見交換をした。クレムリンの動静に通じているカザコフ氏は「総動員体制も敷かず、平時体制で、将兵を確保することになる」と述べていたが、この予測は正しかった。今後の見通しについて筆者はカザコフ氏とこんなやりとりをした。
<カザコフ「既にルハンスク人民共和国は完全に解放された。ドネツク人民共和国についても50%以上の地域を解放している。もう少し時間がかかるが、ドンバス地域の完全解放を実現する。同時にウクライナの大都市を制圧する。当面は、ニコラエフを制圧し、(モルドバ共和国東部でロシア軍が駐留する)沿ドニエストルと連結することだ」
佐藤「ニコラエフに続いてオデッサを制圧するのではないのか」
カザコフ「オデッサは迂回(うかい)する。ニコラエフと沿ドニエステルを連結することによって、オデッサをウクライナから切り離す。オデッサについてはプーチン大統領から空爆を差し控えよとの指示が出ている。さらにザパロジエとドニエプルペトロスクを制圧する。特にドニエプルペトロスクにはウクライナ最大の軍事工場『ユージュマシュ』があるので、ここを制圧することが戦略的に重要になる」>
戦争がウクライナ国外(例えばモルドバ)にも拡大する現実的可能性が出てきた。ウクライナを支援する米国を中心とするNATO諸国の対応いかんによっては、この戦争が第3次世界大戦に発展するリスクがある。
(作家・元外務省主任分析官)