12日夕、那覇市長選に立候補した知念覚氏の支持を表明するため、後援会事務所を訪れた城間幹子市長は盛大な拍手に包まれた。知念陣営が目指していた、自公にとどまらない「保守中道」を取り込むためのパズルのピースがそろい、潮目が変わった日だった。
市政奪還を狙う市議会自民党会派の一部は市長選の約1年前から知念氏の擁立を模索していた。中心になった市議は「自公の票だけでは勝てない。オール沖縄の票を切り崩す必要があった」と話す。自民と知念氏は共産とは相いれないものの、自公と保守系会派、オール沖縄の一部の推薦を受けての出馬を狙った。だが、自民とオール沖縄の相乗りは双方で否定的な意見が強く、頓挫した。
一方、安慶田光男元副知事や経済界も知念氏の擁立を目指していた。安慶田氏と知念氏はかつて共に翁長雄志前市長(前知事)を支えた仲だ。安慶田氏は知念氏が菅義偉前首相とのパイプを築くことにも一役買った。
自民を飛び出してオール沖縄誕生に貢献した安慶田氏は自民からは「戦犯」扱いされている。自民内部では知念氏がオール沖縄市政の副市長だったことや、安慶田氏に近いことから、擁立に反対する声もあった。
さらに知念氏擁立を推進した自民市議は、県知事選で自民が擁立した佐喜真淳氏の応援に知念氏が立つことを止めた。「佐喜真の負けは見えているのに、知念に傷を付けることはない」。佐喜真氏の応援を控えることは、相手候補の玉城デニー氏を応援していた城間幹子市長に知念氏支持を表明してもらう環境整備でもあった。
安慶田氏らは知念氏の後援会に参加。「知念市政誕生」という共通目標のため、自公と後援会はそれぞれの選挙事務所を構えて共闘した。後援会はかつてオール沖縄にいた保守層など「知念氏を応援しているが自公の事務所に行きにくい人」の受け皿として機能。城間幹子市長を迎えたことで効果を最大限に発揮した。
一方、自民の一部には選挙が迫っても不満がくすぶった。菅前首相が7日、知念氏を激励するため来県した際、ある議員は市長選を巡る不満をしたためた手紙を渡した。数日後、菅氏はこの議員に電話を掛け「もう少しで勝てるから協力を」と頼んだ。茂木敏充幹事長も自民議員に電話を掛け、尻をたたいた。他市議員の応援もあり、知念陣営は本紙調査で自民支持層の8割超をまとめた。
自公にとって8年ぶりの市政奪還となったが、ある自民市議は「知念氏が自民の言うことを聞くかは分からない。安慶田氏も影響力を示そうとしてくるだろう」と指摘。知念氏を支えた功労者による“綱引き”を警戒する。
(’22那覇市長選取材班)