美術品 修理完了は364点中9点<首里城焼失3年・きょうから正殿復元工事>


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首里城の火災で正殿など7棟が全焼したが、城内に保管、展示されていた美術工芸品も大きな被害を受けた。首里城美術工芸品等管理委員会が今年3月にまとめた報告書によると、火災前の美術工芸品1510点のうち、焼失を免れたのは1119点。うち修理が必要となる被害を受けたのは364点に上る。中でも漆器は281点を占めている。文化財の価値を損ねないよう、専門家の知見を得て慎重に修理を進める必要があり、全ての作業を終えるまでに20~30年かかるとの見通しもある。

修理を担う沖縄美ら島財団によると、現時点で修理を終えた美術工芸品は絵画3点、漆器3点、陶磁器3点にとどまる。修理中なのは絵画2点、漆器31点、陶磁器16点だ。

(左)修復前と(右)修復後の「呉須線彫牡丹文酒注(ごすせんぼりぼたんもんさけつぎ)」(美ら島財団提供)

 絵画は黄金御殿特別展示室で尚育王の御後絵(デジタル複製)が焼失するなど6点に被害があった。同御後絵や近世琉球の絵画「雪中花鳥図」などの復元が検討されている。

漆器は梱包時の包装薄紙がくっついてしまったり、漆塗膜の浮きや剥落、亀裂などが生じた。薄紙を剥がす作業などが進められている。染織や書跡、陶磁器、金工品などにも被害があった。

修理、復元には2020年度から取り組んでいる。報告書は保存管理の取り組み強化などを提言している。

美ら島財団総合研究センター琉球文化財研究室の喜幸淳室長は「火災と水の影響で温度と湿度が急激に変化すると古い文化財にどういう影響が出るのか、詳しく分かっていないことも多い。科学的な分析を進め、専門家も加わった会議で検討しながら作業を進めている」と語る。今後について「修理の方法が確立していない部分もある。『20年以上』という話もあるが、それより長くなることはあっても短くなることはないだろう」と見通した。

(宮城隆尋)

 首里城正殿の復元工事が3日、本格的に着工される。2019年10月31日の火災で焼失してから3年。県内外を問わず多くの人が首里城に心を寄せ、復興を願ってきた。正殿は26年秋ごろまでに完成が見込まれる一方、首里城内で被災した美術工芸品の修復にはさらに長期間を要するとの見通しがある。1992年の復元時よりも県内の担い手の人材育成が進み、より県民主体の復興となることが期待されている。