【深掘り】沖縄県外から中城湾港への車両輸送も「訓練」…民間港の使用、防衛省の狙いは 日米統合演習


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 日米共同統合演習「キーン・ソード23」に向けて、防衛省統合幕僚監部は8日、チャーター船(PFI船舶)で大規模な人員や車両輸送を実施し、本格的な演習開始を前に、準備を整えた格好となった。陸揚げされた車両70台あまりは、国道58号で断続的に車列をつくり、一般県民に「見える形」で移動するなど、有事さながらの緊張感が漂った。

一般車両に交じり、国道58号を走行する自衛隊車両(中央付近)=8日午後1時50分、那覇市の泉崎交差点(ジャン松元撮影)

 中城湾港には反対する市民らが集結し、自衛隊車両は船舶が接岸した西埠頭(ふとう)から東埠頭(ふとう)側へ、大回りで移動して港湾から出ざるを得ない状況もあった。与党県議の一人は「県内に広大な訓練区域や施設を有しているのに、わざわざ民港を使用する理由が分からない。県は行政的権限を用いて使用を不許可にした方がよかった」と港湾使用を許可した県の判断を疑問視する。

 一方、県は、統合幕僚監部が与那国空港を使用するために提出した「制限重量超過航空機使用申請書」について8日も許可を出さなかった。関係者によると、県は幹部による検討を続けており、反対意見もある今回の演習を巡り、対応を考慮しているとみられる。県は訓練全般について、住民生活への影響を最小限とするよう、防衛省に申し入れる方向で検討に入っている。

 防衛省、自衛隊にとっては県外から中城湾港への輸送自体が訓練の一つだった。関係者によると、有事となった際、本州に配備している装備品や人員を一気に南西諸島に輸送することを想定している。平時には点在させておき、必要に応じて集中させる構想だ。訓練で南西諸島の民間空港や港の使用を積み重ねる狙いがある。

 訓練に並行し、政府・与党内では港や空港など公共インフラについても防衛省のニーズを織り込んで「有事の際は防衛に使えるようにするべきだ」という議論も進む。浜田靖一防衛相は4日の閣議後会見で先島諸島での空港や港湾の利用について関係省庁との議論に前向きな考えを示していた。

 さらに斉藤鉄夫国土交通相も8日の会見で「空港、港湾などの公共インフラを所管する立場として、自衛隊の部隊展開や住民保護のニーズを踏まえ、利用のあり方について政府全体での検討に参画していく」と言及。公共インフラの国防面での利用が県内でも今後進む可能性がある。

 防衛省関係者は「単にインフラを整備しても訓練で使えなければ防衛の観点からは意味がない。訓練で使っていなければ有事に使えない。インフラ整備の前に訓練で柔軟に使える環境整備が重要だ」と強調した。

(池田哲平、梅田正覚、明真南斗)


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