ドイツ人ピアニスト、マティアス・キルシュネライトのピアノコンサート(琉球フィルハーモニック主催、琉球新報社共催)が3日、那覇市泉崎の琉球新報ホールで開かれた。ピアノソロや室内楽を奏で、キルシュネライトは詩的な情景を描くように、物語性に富んだ多彩な音色で魅了した。「プレミアムクラシックコンサート」シリーズの一環。
幕開けはブラームスの「16のワルツ作品39」で飾り、キルシュネライトは「沖縄はとても大好きで本当に愛しています」と来場者にあいさつした。曲が書かれた作曲家の背景などを解説しながら、キルシュネライトは演奏する際に感じていることなども語った。
ベートーベンの「ピアノ・ソナタ第8番『悲愴(ひそう)』ハ短調作品13」と「ポロネーズハ長調作品89」を披露した。「悲愴」はベートーベンが難聴を自覚した時期に書かれ、キルシュネライトは「(難聴による)苦しみや闘いの声が聞こえてくるようだ」と語り、全3楽章の異なる世界観を繊細に奏で分けた。前半の最後に、ショパンの「夜想曲(ノクターン)」をサプライズで応えた。
後半は琉球フィル客演ソロ・コンサートマスターの高橋和貴(バイオリン)、同客演首席奏者の下田太郎(ホルン)と共演で室内楽作品を演奏した。トリはブラームスの「ホルン三重奏曲変ホ長調作品40」。調和のとれた美しい音色や時に力強いリズムが胸を打ち、会場は拍手喝采に包まれた。
アンコールにピアノ、ホルン、バイオリンによる編曲版の「さとうきび畑」が披露された。空や海の青さ、そよぐ風、降り注ぐ光を表現するように、優美に奏でた。キルシュネライトは事前取材で「音楽には愛があって、悲しみもあり、人間らしさが伝わるのが音楽の良いところだ」と語っていた。ウクライナや沖縄に対する平和への思いが伝わる、温かみのある演奏会だった。
(田中芳)