【深掘り】陸自訓練に沖縄県警と海保が参加した背景は? 「統制要領」策定の動きと連動か


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 尖閣諸島を想定して長崎県の津多羅島で実施された訓練で、県警や第11管区海上保安本部が参加していたことが明らかとなり、中国との緊張が高まる尖閣諸島を巡って自衛隊と海保、警察機関の連携強化の加速が改めて示された。政府内では年末の安保3文書改定と連動し、有事の際に海上保安庁を防衛大臣の統制下に入れる「統制要領」の策定を進める動きが持ち上がっているが、治安維持活動を行う警察・海保と自衛隊の一体的な運用が先行して進む実態がある。

 尖閣諸島を巡っては、漁民に見えるが、一定の軍事訓練を受けている中国の「海上民兵」による占拠を懸念する見方もある。

 今回の訓練はこうした外国の武装勢力が上陸したと想定し、事態を把握し、取り押さえるまでの一連の動きを確認したとみられる。

 訓練の想定となる「グレーゾーン事態」は、武力攻撃に至らない範囲で日本の主権が侵害される可能性がある事態。警察や海保だけで対応できず、自衛隊による海上警備行動や治安出動に至った際の各機関の連携が課題とされている。切れ目のない対応に向けた対処能力向上を図ることが訓練の狙いとみられる。

 関係者によると、訓練は日米共同統合演習「キーン・ソード23」の期間中に実施されているが、日米の演習とは切り離されている。

 ただ、自衛隊としてより多くの部隊を動かし、さまざまな事態が同時期に多方面で起こったシナリオを見込んでいる可能性もある。

 また、尖閣諸島の有事では、自衛隊など日本側が前面に立って対応することが前提になっているとの見方もできる。

 日中がにらみ合う尖閣諸島では、中国海警局船に武器使用を認めた海警法が2021年2月に施行された。領海警備にあたる海保の緊張感が高まる中、海警局の船による尖閣周辺の領海侵入が常態化している。

 政府は、海保の巡視船で海警局船に対応しきれなくなった場合、防衛相が自衛隊に海上警備行動を発令し、警察権を引き継ぐ段取りを想定する。

 だが、自衛隊が動けば中国も軍隊を出動させて対抗することは必至で、大規模な軍事行動に発展しかねない。

 今回の訓練について防衛省や県警は詳細を公表しておらず、県民に見えないところで特殊な訓練が進むことに不安を高めることは避けられない。中国も対抗措置を強めて緊張がさらに高まれば、漁業関係者などへの影響も懸念される。

(池田哲平)