【深掘り】南西諸島有事、沖縄本島を「後方支援の拠点」と位置付けか 日米統合演習 大規模訓練に緊張高まる


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
日米共同統合演習「キーン・ソード23」の一環で、輸送機で患者輸送の訓練をする自衛隊員ら=15日、航空自衛隊那覇基地

 日米共同統合演習「キーン・ソード23」の一環で、米海兵隊と自衛隊が15日に公開した医療拠点開設や、患者輸送などの一連の訓練は、日本が他国から攻撃を受けた「武力攻撃事態」を想定して実施された。訓練は奄美駐屯地(鹿児島県)から、負傷した兵士や自衛隊員を海軍病院や自衛隊病院などの施設がある沖縄本島に輸送する形をあえてとった。訓練のシナリオからは南西諸島での有事で、沖縄本島を補給や医療など後方支援の「拠点」として、位置付けているとの見方もできる。

 一方、米軍はキャンプ瑞慶覧で、離島を占拠し給油や攻撃の臨時拠点をつくる「EABO(遠征前方基地作戦)」を踏まえ、臨時の医療施設(EMF)を開設する訓練を実施。スティーブン・アル海軍大佐は「EMFは医療施設なので必要な場所にどこでも展開できる。日米の能力を理解して、今後の演習に向けた良い機会となる」と強調した。米側が日本側の「力量」をはかりつつ、今後も同様の訓練を実施すると示唆した形だ。

 他国の動き

 統合幕僚監部は15日、ツイッターで護衛艦「あさひ」が艦砲射撃をする様子と、艦上で射撃を準備するAH64ヘリの画像を公開した。具体的な場所は明らかにしていないものの、13日に撮影されたとしている。同時期に、日米は、北大東村の沖大東島射爆撃場での訓練を予定していたため、その様子を明らかにしたとみられる。

 最前線での戦闘から、15日に公開された後方支援まで、訓練を同時期に、複合的に実施していることが示された形となった。大規模な演習に伴い、15日には米軍のオスプレイが牧港補給地区に離着陸したほか、国道58号で米軍車両が移動する様子が確認されるなど、県民生活への影響も徐々に表面化している。

 訓練の「余波」

 統合幕僚監部の発表によると、13日にロシア海軍の船舶5隻が与那国島と西表島の間を通過して東シナ海に進出。14日には中国軍の無人偵察機などが、沖縄本島と宮古島の空域を通過した。キーン・ソードが実施されたことを受けた動きとみられ、緊張も高まっている。那覇空港では15日、航空自衛隊のF15戦闘機が頻繁に離陸する様子も見られ、那覇市の中心地では航空機の騒音が響き渡っていた。

 中国やロシアの動きについて、自衛隊関係者は「タイミングと位置から見てキーン・ソードへの対抗と情報収集だろう」とみる。キーン・ソードは日米共同の演習だが、今回は参加国を広げており、オーストラリアやカナダ、イギリスも一部訓練に参加している。「多国間の中国包囲網をけん制しながら、情報を収集するのにも(中国にとって)好都合ということではないか」と語った。

 大規模なキーン・ソードの実施や、防衛力の強化に向けた議論が、南西諸島の緊張を高めている。防衛省関係者は「その一面もある」と認め「中国の覇権主義をけん制するために必要な緊張とも言える」と話す。だが、緊張の糸は張り詰めるほど切れかねない。そうなれば、県民生活への影響は計り知れない。
 (池田哲平、梅田正覚、明真南斗)