【深掘り】機動戦闘車、与那国の公道5キロ走行 「走らせること自体が訓練の一環」防衛省の狙いとは 日米統合演習


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列を組んで与那国町内の公道を走行する16式機動戦闘車(奥)。見つめる住民の姿も=17日午後3時21分、与那国町与那国(小川昌宏撮影)

 防衛省統合幕僚監部は17日、日米共同統合演習「キーン・ソード」の一環で与那国空港に陸自最新鋭の装甲装輪車「16式機動戦闘車(MCV)」を運び込み、県内で初めて一般の道路を走行させた。空港から与那国駐屯地までの5キロ程度の走行だったが「走らせること自体が訓練の一環」(防衛省関係者)と位置付けて実施した。105ミリ砲を登載した車両が一般住宅にも隣接するメーン道路を走行し、住民の生活の場にも侵食。国境の島は、異様な雰囲気に包まれた。

 自衛隊はこれまで、沖縄戦で住民が巻き込まれたことなど、県民感情への配慮から、訓練であっても戦車などを県内に展開することは避けてきた。だが、今回の共同演習では、有事に前線で使われることを想定した車両を与那国町に運び込んだ。防衛省関係者は「狭い島だからこそ、輸送機で運べるMCVの機動力を生かせる」と述べ、有事に備えて搬入に支障がないかどうかを確かめる狙いがあると明かした。

 困惑

 「訓練よりも、実際有事になってしまうことが恐怖だ」。東京出張中の糸数健一与那国町長は17日、こう切迫感を強調した。中国と台湾の緊張関係により、与那国島では真夜中に台湾軍の演習が聞こえることもあった。糸数町長は台湾有事に日米が対応するという「意思を示す」ことになるとし、訓練に容認姿勢を示した。

 ただ、MCVの走行や米軍の参加には困惑の声もある。「陸自の大きな飛行機を見て島民は驚いたはずだ」。かつて町議だった男性は、今回の演習について島民の率直な思いを代弁する。
 男性は、かつて陸自が与那国に入る際に生じた賛成・反対の住民間の溝が現在でも埋まっていないと語る。今回、米軍が島に入り、想像以上に大規模な演習となったことで「新たな分断を生みかねない」と指摘する。

 矛盾への批判

 一方、玉城デニー知事は県民感情への影響などを踏まえ、この間、与那国町でMCVの走行はしないよう求めていた。ただ、MCVを巡る県側の申し入れも、公道での使用を「自粛」し、再考を求める形にとどまった。
 県はこれまで米軍が空港や港湾を使う際には自粛を求めてきた。だが、玉城知事の支持者の間にも、MCVを輸送する自衛隊に空港施設の使用を許可した、対応の矛盾を指摘する声もある。
 ある与党県議は「知事選での公約をしっかり果たす必要があるのでは」と強調。自衛隊への対応を巡り、受け止めに差が出ている。(知念征尚、明真南斗、大嶺雅俊)