沖縄初の「脱炭素先行地域」に 与那原町CO2排出ゼロに本腰<沖縄からSDGs>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)は県内でも認知が広がり、市民や企業の取り組みも活発化してきた。2022年度の琉球新報のSDGs特集は沖縄県内を中心に国内、海外の話題を紹介し、県民が気軽に参加できるアクションの情報を提供する。今回は、環境省が進める「脱炭素先行地域」に県内で初めて選定された与那原町を取り上げる。電力消費に伴う二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにする計画や課題などについて紹介する。


 

 1日、県内初の「脱炭素先行地域」に選定された与那原町。東浜地域と町の全公共施設を対象エリアとし、住宅、商業施設に太陽光発電・蓄電池を設置するなど、自然エネルギーを導入し、2023年度から27年度の5年で二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロの実現を目指す。照屋勉町長は「全町民が地域の新電力事業に参加し、産業を創出して、事業の収益を町の課題解決、経済強化につなげたい」と意気込む。

 東浜は、一戸建て住宅376戸をはじめ、集合住宅や大型ショッピングセンター、大学などがあり、大型MICE施設の誘致も決定している。町と計画を共同提案した与那原脱炭素地域づくりコンソーシアムは、太陽光パネルと蓄電池設置に着手する。水路や公園には太陽光パネルで覆われたアーケードも計画している。また、同地域に小型風力発電や波力発電も導入する予定だ。

脱炭素先行地域に指定された与那原町東浜地域(与那原町提供)

 町は2020年から、企業と連携して地球環境に優しい町を目指す「よなばる綱がるプロジェクト」をスタートさせ、一般家庭の太陽光パネルの設置や電気自動車の無償貸与などの実証実験を行ってきたほか、知念高校の生徒と町内の学生らも交えて、住民向けの勉強会も重ねた。町の前城充政策調整監は「町民には毎年開催する与那原大綱曳によって、職業、年齢、性別を問わず連帯感が培われている。そうした社会関係資本が脱炭素のまちづくりにも後押しできる」と期待する。

 与那原脱炭素地域づくりコンソーシアムの幹事社、おきなわパワーHDの磯部達代表は「プロジェクトの目的は地域住民の暮らしの向上だ」と指摘する。「ドイツのシュタットベルケのように、地域全体で再エネで電力を作り、余った電気を売電し、収益の一部を住民のために還元させる。与那原町だけでなく、周辺自治体にも広げていきたい」と強調した。

電気自動車や再生エネルギーの活用などを推進する「よなばる綱がるプロジェクト」出発式に参加する与那原町の照屋勉町長(前列右から5人目)ら=2020年9月30日、与那原町東浜の与那原マリーナ

 一方、東浜自治会の國仲健次会長は「脱炭素に向けたまちづくりは大いに歓迎」としつつも「住民それぞれの住宅事情を考慮しながら、太陽光パネル設置に取り組んでほしい」と指摘する。また「(太陽光パネルの)アーケードの話も聞いたが、設置後の維持・管理はできるのかなどの説明もほしいし、地震、津波などの対策や防災強化と相互に取り組んでほしい」などと要望した。


25年度までに100地域選定 環境省 全国で再生エネルギー活用

 環境省は、電力消費に伴う二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにするモデルとなる「脱炭素先行地域」を全国各地で選定している。4月には第1回の選定で26カ所、11月1日には第2回の選定で与那原町を含む20カ所がそれぞれ決定した。これまでに選定された地域では、市営住宅や小中学校の屋上や調整池などを活用した太陽光発電(神奈川県横浜市など)や、電気自動車のバスやタクシーへの補助拡充(兵庫県姫路市など)といった計画を進め、CO2排出をできる限り抑制していく。

環境省が描く脱炭素先行地域のイメージ図(同省ホームページより)

 環境省は、2025年度までに全国で少なくとも計100カ所の脱炭素先行地域を選定する方針。全国各地で再生エネルギーの活用を普及させ、脱炭素へ向かう好循環として「脱炭素ドミノ」を30年度までに生み出したい考えだ。

 選定された各地域で脱炭素を実現するため、地方自治体や地元企業・金融機関が中心になって取り組む。環境省を中心に国も積極的に支援し、地域の実情に合わせた課題の解決を目指す。

 例えば、鹿児島県・沖永良部島の知名町では、災害時にエネルギーの脆弱(ぜいじゃく)性が懸念される課題も踏まえ、一定の範囲でエネルギーを地産地消するなどのマイクログリッド(小規模電力網)化を進める。自家消費型の太陽光や蓄電池を導入し、島内で循環する基盤整備に取り組む。計画をうまく進め、先行例につなげることができれば、離島が多い沖縄でも参考になりそうだ。


 SDGs(持続可能な開発目標)は2015年、国連サミットで採択された国際社会の共通目標。環境問題や貧困などの人権問題を解決しながら経済も発展させて持続可能な未来を創ろうと、世界中で取り組みが進められている。

取材・金城実倫、古堅一樹