prime

【深掘り】有事の住民避難に自衛隊はどこまで携わる? 与那国のミサイル避難訓練には参加せず


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
弾道ミサイルに備えた訓練で、誘導に従い避難する人たち=30日午前、与那国町

 与那国島で30日に実施された住民避難訓練は避難手順の確認など住民の意識啓発が目的となった。相手国が発射した弾道ミサイルが日本に飛来する可能性を想定したが、島しょ防衛を目的に配備された自衛隊は参加しなかった。緊急時に防衛省・自衛隊がどの程度関わるかは見通せず、緊急時の情報提供を含め、国の姿勢に対する疑問も浮かんだ。

「連絡来なかった」

 今回の訓練は午前10時に弾道ミサイルが発射、同4分に全国瞬時警報システム(Jアラート)が速報され、同11分に与那国町上空を通過するという想定で行われた。

 警報から通過までの7分前後でいかに公民館へ避難させるかが一つのポイントとなった。だが、避難開始の前提となる国の情報提供には、不安を抱かせる一幕があった。

 自衛隊配備に賛成する町議の一人は、中国が8月に軍事演習を行った際、波照間島近海にミサイルが落下した出来事を振り返り「国から地域への連絡は全然来なかった」と不満を口にした。

 島しょ防衛を巡っては2016年に陸上自衛隊与那国駐屯地が開設されているが、弾道ミサイルを想定した今回の訓練には参加しなかった。

 国は自衛隊の主な任務を「武力攻撃の排除を全力で行う」こととし、任務に支障のない範囲で国民保護措置に協力すると位置付ける。

 自民党の国防族議員には、国民避難に予算や人材を含め「国防の資源を使うべきではない」との意見もある。有事に自衛隊がどこまで住民保護に携わるかは見通せない。

参加住民22人

 台湾海峡情勢を巡る緊張感が高まる中で行われた今回の避難訓練。ただ、実際に参加した住民は22人。島全体に避難訓練参加を呼び掛けたにもかかわらず国や自治体が想定した30人を下回った。

 与那国町担当者は「参加のお願いは苦労した」と振り返った。

 島内では17、18日に陸上自衛隊の「16式機動戦闘車(MCV)」が県内で初めて公道を走行するなど、日米共同統合演習が行われたばかり。「住民には訓練をすると緊張を高めるという声もある。(訓練の呼び掛けで)ミサイルという言葉を使うな、という雰囲気があった」と、有事を想定した訓練を巡る住民感情の難しさを語った。

 この担当者は「訓練は必要だった」としつつ、「こうした準備は(実際には)使わないことが一番だ」と強調した。

 訓練後、記者団の取材に応じた糸数健一与那国町長は、有事を念頭に置いた訓練の意義を強調しつつ「今、日本はインテリジェンスと外交が著しく弱い。間違っても台湾海峡、与那国海峡この界隈で紛争を起こさないような外交努力をやってほしい」と念を押した。
 (知念征尚、明真南斗、西銘研志郎)