歴代宝案 アジア外交の「一級史料」 台湾の写本、専門家「収録冊数は原本迫る」 ユネスコ登録へ沖縄側も行動を


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台湾大学図書館に所蔵されている「歴代宝案」の一部(同大提供)

 世界記憶遺産の台湾内の候補リスト「世界記憶国家名録」に登録された琉球王国の外交文書集「歴代宝案」の写本(台湾大学図書館所蔵)は、琉球や台湾だけでなく、中国や朝鮮などの対外関係史を研究する上でも注目される史料だ。名桜大学大学院の赤嶺守特任教授は「琉球王国と中国や朝鮮・東南アジアとの外交を知る上での一級史料」と指摘する。

 「歴代宝案」は、琉球王国時代に「王府本」と「久米村本」が作成された。1879年の琉球併合(「琉球処分」)に伴い、「王府本」は明治政府に没収され、内務省の書庫に保管されたが、1923年の関東大震災で焼失した。

 一方、「久米村本」は琉球王国の滅亡後、長く秘密文書として扱われ、久米村の旧家に転々と隠匿されていた。その後、「久米村本」は県立図書館に寄託されたが、沖縄戦で失われた。

 台湾大学で所蔵している写本は「久米村本」の写し。35年に台湾大学の前身である台北帝国大学に在籍した日中交渉史の研究者が「歴代宝案」に着目し、沖縄側に県立図書館の副本からの写本作成を依頼。現在、台湾大学の三大貴重資料の一つとして図書館の特蔵室で大切に保管されている。

 台湾政府は、台湾内にある世界的に重要な記録物の保存や認識の向上などを促進するため、2016年から「台湾世界記憶国家名録計画」を始めた。2017年から台湾版の「世界の記憶」として名録事業をスタートさせたという。

 「歴代宝案」には、中国皇帝が新たな琉球国王を認める文書や、中国と日本との通交の仲介を琉球に求める文書なども含まれる。

 県教育委員会はこのほど、「歴代宝案」の読み下しを記した「訳注本」全15冊の刊行を完了していた。
 (呉俐君)

台湾大学図書館に所蔵されている「歴代宝案」(同大提供)

ユネスコ登録へ 沖縄側も行動を

 約30年をかけ「歴代宝案」訳注本などの県の編集事業を推進してきた名桜大学大学院の赤嶺守特任教授の話 カバーしている時代の長さ、収録文書の数の多さにおいて他に類を見ない写本だ。歴代宝案が重要な文献として台湾で高く評価されているのは、現存しない原本に迫る収録冊数を誇るということにある。台湾のみならず中国の研究者からもユネスコ世界の記憶登録を望む声が多く上がっている。沖縄側も登録に向けて積極的に動き出すべきだろう。

<用語>歴代宝案

 琉球王国が1424~1867年の444年間にわたり、中国や朝鮮など周辺諸国と交わした文案などを集成したもの。外交や貿易の記録を通して、琉球王国とアジア諸国との関係などを知ることができる。