【識者談話】安保3文書を貫く「軍の論理」 我部政明・琉大名誉教授


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我部政明氏

 国家を守るには規模が小さい軍隊を指す「ボンサイ(盆栽)」アーミー(軍隊)と呼ばれてきた自衛隊は、この安保関連3文書により今後5年から10年をかけて「ハコニワ(箱庭)」アーミーへと「大転換」をする。

 3文書の要点は、米国の軍事関与を想定しない限り実際は守れないにもかかわらず、自らの意思と能力で自国を守ると前面に出した点にある。また、戦略環境を主体的に評価し、行動する能力保有を目指す点が、「箱庭」を「小宇宙」と見立てる世界観と相似形をなす。この「箱庭」に、国際秩序へ「脅威」を与えるロシアや「挑戦」をする中国を配し、日本が連携・協力を進める同盟国・米国と「同志国」が設けられている。

 この大転換は、日米同盟に加え、周辺諸国の軍事拡大に対応して防衛(軍事)力の「抜本的強化」を図ることにより、日本からの「反撃力」を恐れさせて中国や北朝鮮に日本への攻撃を行わないようにさせることを「抑止」という。万一、「攻撃を受けたとき(または、受けるとき)」に強化された自衛隊が阻止・排除し、さらなる攻撃を阻止するために反撃力とされるミサイルで敵基地を攻撃する手はずを整える、というものだ。

 しかしながら、なぜ脅威や挑戦する国々が日本を攻撃するのか説明は皆無である。軍事能力を増強すれば攻撃の意思ありと捉える「軍の論理」のみが、この3文書を貫く。日米の軍事拠点である沖縄は、相手(例えば中国)から見るとき、中国への攻撃を仕かけるつもりの日米だから、日米の「攻撃を受けるとき」には沖縄を攻撃すべきとなる。

 これらの基地増強は沖縄をますます攻撃対象とする。そこに沖縄の人々の懸念と不安が募るのである。

 この3文書は、米軍や自衛隊のさらなる基地建設によって日本攻撃を抑止できると評価する。確かに、安心を得る人々もいる。しかし、抑止は日本人の安心のためにあるのではない。抑止は、攻撃をする側が抱くことである。攻撃は相手が必要だと判断すれば、日本の意思や能力にかかわらずに行われる。新設された自衛隊基地の司令部は地下に設置され、ミサイル攻撃に耐え得るだろう。住民の避難できる地下施設は沖縄にはない。攻撃を早期に予想できたとして、「軍の論理」から沖縄の人々に知らせるだろうか、非現実的である。

(国際政治学)