語られぬ戦争回避 柳沢協二氏(元内閣官房副長官補)<沖縄の視点から安保3文書を読み解く>③


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
柳沢協二氏(元内閣官房副長官補)

 閣議決定された安保関連3文書には、「戦略的挑戦」「反撃能力」といった勇ましい言葉が並ぶ。世論調査では、こうした方向性をやむを得ないと受け止める声も多い。ウクライナの戦争や、台湾、北朝鮮の緊張に戦争への不安を感じているからだ。

 南西諸島などへ「敵基地攻撃」のための自衛隊ミサイル部隊の配備もうたわれている。琉球新報による5月の世論調査では、県民の91%が中国の軍事動向に不安を感じ、55%が県内への自衛隊配備の増強を支持している。他方、8月のペロシ米下院議長の台湾訪問に合わせた中国軍のミサイル演習では、南西諸島のEEZにミサイルが着弾し、台湾有事に巻き込まれる不安を実感させられることになった。

 戦争の不安の時代である。これにどう答えるかが問われている。安保関連3文書が示すのは、反撃能力など「戦争に備える」政策である。それが抑止になると考えている。他方、戦争となれば国民の犠牲が避けられない。国民の命を守るためには「戦争を回避する」政策が必要だが、その選択肢が語られていない。また、「戦争に備える」としても、それは相手をたたく兵器を持つだけでは終わらない。大事なことは、戦争の被害をなくし、または被害に耐え抜くことだが、それも語られていない。

 台湾有事とは、中台の衝突であり、米国が介入すれば米中衝突になる。米軍の拠点は沖縄にある。日本が米軍に協力すれば日中衝突を招く。そのとき、「反撃力」を持つ沖縄は、当然、攻撃対象になる。それは、「誰のための抑止か」という深刻な疑問を提起する。

 抑止は万全でも万能でもない。11月の米中首脳会談では、台湾をめぐる「双方のレッド・ラインを探る対話」が合意された。相互のレッド・ラインを越えない自制こそ、戦争回避の決め手だからだ。沖縄を守る望みは、こうした外交を諦めないことにある。