いびつな議論 投影危惧 宮城大蔵氏(上智大学教授)<沖縄の視点から安保3文書を読み解く>⑤


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宮城大蔵氏(上智大学教授)

 安全保障関連3文書の改定は安保政策の大転換とされるが、岸田文雄首相はすでに5月にバイデン米大統領に「防衛費の相当な増額」を明言している。その米国は同盟国の軍事力をこれまで以上に当てにする方針だ。だが、1950年代のアイゼンハワー大統領が、米ソ冷戦を戦うために最も重要なのは米国の財政を健全に維持することだと強調したように、米国には財政の健全性と安全保障をセットで捉える発想がある。翻って日本はどうか。

 今日の日本にとって、国家存続の危機に直結するのは財政破綻、急激な少子高齢化、そして阪神淡路以降に頻発する大震災だろう。今後も予想される大震災後の復興といった「有事」のために平時には財政の健全化に努力するのが政治の「常道」だが、今の政治はたがが外れた状態だ。

 ずらりと並ぶ新装備のメニューには、自衛隊の有力OBも「今の自衛隊の身の丈を超えている」と憂慮する。本当に必要な装備を積み上げたというより、政治レベルの半ば思い付きで出来上がったパッケージなのだろう。

 台湾有事にしても、問題は台湾海峡の安定維持だということを間違えてはならない。有事対応を語る政治家は多いが、緊張緩和に尽力しようというまっとうな使命感を持つ政治指導者はいないものか。

 このような安全保障を巡るいびつな議論が、凝縮された形で沖縄に投影されることをとても心配している。県や各自治体が円滑な行政運営のために国との関係を波立たせたくないのは当然だが、いびつな議論が現実として立ち現れるのは沖縄の地においてだ。

 住民避難計画などを具体化する過程で、台湾有事の勃発が既定路線だという発想に陥ってはいないだろうか。政府をはじめとする「中央」での議論のいびつさを丸のみしてはならないと思う。
 (国際政治史)
 (おわり)