昨年11月17日、陸上自衛隊最新鋭の16式機動戦闘車(MCV)が与那国島を走行した。目的は島内で行われた日米共同統合演習「キーン・ソード」に参加するため。その日、島は物々しい雰囲気に包まれた。
自衛隊車両と隊列を組み、ゆっくりとしたスピードで町中を走行するMCV。沿道にはその様子を見ようと集まった島民の姿もあった。だが感想を聞こうとしても、多くの場合、島民は固く口を閉ざす。狭い島社会の中で、自身の意見を表だって語る人は少数派だ。
何人目かの取材で、一人の女性がぽつりと答えてくれた。「守ってくれるかは分からないが、自衛隊がいることで安心感がある」
島には2016年、陸自駐屯地が開設された。
配備の賛否で島が割れた。結局、住民投票で配備賛成派が反対派を上回り、島は自衛隊を受け入れた。今では自衛隊の姿は町の見慣れた風景となり、分断を経験した島民たちが、あえて賛成・反対の声を表に出すことは少ない。島は自衛隊とともに静かに時を過ごしていた。だが今回の訓練は、そんな雰囲気を吹き飛ばした。
匿名での取材に応じた30代の漁師の男性は「なぜ米軍を呼び、中国に刺激を与えるようなことをするのか」と憤る。
男性は保守派だ。国境の島で駐屯地の機能には理解を示す。それでも「米軍と訓練し、あえて有事を招く挑発のようなことはするべきじゃない。静かに暮らしていければいいのだが、あの訓練以降、そんな状況ではなくなった」と表情を曇らせた。
国内最西端の小さな島は今、大国間の軋轢(あつれき)の下でざわめき始めている。
(西銘研志郎)