【独自】中国との戦闘、攻撃受ける地域に「南西諸島想定」、長期戦「残存兵力で海上阻止」 21年度の防衛研究所提言 


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 防衛省のシンクタンクで安全保障や戦史などを研究する「防衛研究所」が2021年度に中国との戦闘を想定した研究を取りまとめ、中国からのミサイル攻撃を受けることを前提に、残存兵力で中国を海上で阻止する戦略を提言していたことが分かった。報告書をまとめた防衛研究所防衛政策研究室の高橋杉雄室長は琉球新報の取材に応じ「攻撃を受ける地域の一つとして南西諸島が想定される」と述べた。報告書の内容は昨年12月に閣議決定された新たな安全保障関連3文書を先取りした格好だ。

 

 高橋氏が「将来の戦闘様相を踏まえた我が国の戦闘構想/防衛戦略に関する研究」と題し、報告書にまとめた。中国から攻撃を受けた後、長射程の対艦ミサイルで攻撃し、海上で中国側を阻止する「統合海洋縦深防衛戦略」を唱え、著書にも盛り込んだ。安保3文書の改定について直接的な関与は否定した。一方、安保3文書は(1)ミサイルの長射程化(2)戦闘を継続させる能力の向上(3)攻撃の被害を小さくする性能の強化―などを掲げ、長期戦へ持ち込む報告書の戦略と重なる。

「統合海洋縦深防衛戦略」を提唱する防衛研究所の報告書

 この戦略構想は、現状で中国の戦力が優位にあり「中国のミサイル攻撃そのものを阻止するのは難しい」(高橋氏)と想定した上で、攻撃を受けながらも対艦攻撃などによって海上で足止めし、台湾や尖閣への上陸を防ぐことで日米側の「現状維持」という目的を達成するという考え方に立つ。半年~1年「時間を稼ぐ」ことができれば他地域に展開している米軍が駆け付け、中国の行動を阻止できるとの算段だ。

高橋杉雄氏

 中国への対艦攻撃に、南西諸島に配備される計画の12式地対艦誘導弾(ミサイル)を長射程化した「向上型」が使用される可能性も想定される。

 懸念される住民への影響について高橋氏は「中国は非常に精密な攻撃能力がある。被害は米軍や自衛隊が使える飛行場や港湾に収まり、沖縄戦のように民間人が巻き込まれることはほとんどないだろう」と述べた。また「地上戦になる前に膠着(こうちゃく)状態に持ち込むべきで、戦場は海上が中心になる」とも強調した。

 一方「長期戦のリスク」を認め「日本だけでなく台湾を含めた地域全体が(ロシアに侵攻されて戦闘が続く)ウクライナのような破壊を受ける可能性がある」と述べた。その上で「抑止が重要だ」として、中国を踏みとどまらせる体制整備の必要性を指摘した。

(池田哲平、明真南斗)

(3日付に詳報)