防衛省のシンクタンクで安全保障関連の研究や政策立案への協力を担う「防衛研究所」が、中国からのミサイル攻撃を受けることを前提に、残存兵力で中国を阻止する戦略を提言していた。この「統合海洋縦深防衛戦略」を唱えた防衛研究所防衛政策研究室長の高橋杉雄氏が琉球新報の取材に応じた。やりとりは次の通り。
―台湾有事が起きた場合、南西諸島にどのような影響があるか。
「中国が米軍の介入を阻止するため、南西諸島の飛行場や港湾をミサイルで攻撃すると考えられる。民間も含め、軍事的に使用できる施設が対象になる。無防備なら上陸して占拠しようとする可能性もある」
―ミサイル攻撃を受けることを前提に戦い続ける戦略だが、住民の被害が生じるのではないか。
「中国は米軍や自衛隊が使える飛行場や港湾をピンポイントで狙える。民間人が意図して狙われることは基本的にないと想定している。基地従業員や空港職員ら、軍事目標となり得る施設にいる民間人が巻き込まれる可能性はある」
―日米が介入しようとするから中国が狙うのではないか。
「中国にとって台湾を侵攻する時に最大のアドバンテージがあるのは奇襲攻撃を行う最初の瞬間だ。米軍への攻撃を控え、奇襲攻撃のアドバンテージを逆に米軍に譲ることは考えにくい。米国が介入しないと言ったとしても有事になれば真っ先に狙おうとするだろう」
―報告書では長期戦に持ち込むことを提言しているがなぜか。
「軍全体で見れば中国の戦力は米国の7割程度だが、米軍は世界的に展開するため、中国大陸からグアムまでの地域に限れば中国が上回っている。ミサイル攻撃の能力を考えれば、短期決戦では中国が有利となる。しかし、半年~1年ほど時間を稼げば、他地域に配備されている米軍が駆け付けて日米が有利になる」
―長期戦を目指して膠着(こうちゃく)状態に持ち込んでも戦闘は続くのではないか。
「長期戦のリスクはある。勝利しても地域全体が、台湾を含めウクライナのような破壊を受ける可能性が高い。だから抑止が重要だ」
―防衛体制強化が有事のリスクや地元の負担を高めるのではないか。
「逆説的だが、準備するほど抑止力は高まる。最悪のシナリオが起こらない可能性が増える。ただ、その準備自体に負担やリスクが伴うのも確かだ。二つの難しい選択があり、明確な答えはない」
(聞き手 明真南斗)