【記者解説】戦況次第で民間人に被害 「中国と長期戦想定」防衛研提言、沖縄で進める防衛力強化と合致


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 防衛研究所の報告書で示されている「統合海洋縦深防衛戦略」は、一定程度の攻撃を受けることを前提にして長期戦に持ち込む考え方だ。昨年12月に閣議決定した安全保障関連3文書に基づいて、政府が県内で進めようとしている防衛力強化の方向性と合致する。

 防衛省は、自衛隊那覇病院を建て替えて南西地域での戦傷医療を強化し、那覇駐屯地や石垣駐屯地などでは重要施設を地下化する。南西地域で完結して戦い続けるよう、沖縄市に補給拠点を設ける計画もある。中国からミサイル攻撃を受けても可能な限り戦力が残るようにし、その後も戦闘を続けられるようにするためだ。

 構想をとなえる防衛研究所防衛政策研究室の高橋杉雄室長は「中国はピンポイントで滑走路や港湾に当てられるので、民間人の巻き添え被害はほとんど出ない」と語る。だが、空港や港湾、基地で働く人たちが巻き込まれる可能性は否定できず、中国の戦略や戦況次第では例外もあり得る。

 研究所の構想は長期戦でも、戦闘を海上で食い止めることに主眼を置く。民間人の被害は基本的に想定されないと高橋氏が言う根拠の一つだ。だが、海上阻止が破られた場合は地上戦に発展する可能性もある。

 中国との戦争を想定した時、一定の被害を前提にするほど戦力の差があるなら、衝突を回避する以外に道はない。政府は「だからこそ抑止力を高める」との立場で南西防衛の体制強化を進めるが、意図通りに機能するとは限らない。

 日米が中国と戦うための拠点として強化するほど、それぞれが抑止力強化で対抗し、軍拡競争と衝突リスクを招く「安全保障のジレンマ」に陥りかねない。万が一「抑止」が崩れた場合、沖縄が標的となる可能性を高めることになる。(明真南斗)