水しぶきを上げながら迷彩柄の水陸両用車が上陸する。2022年11月、日米共同統合演習「キーン・ソード23」で陸上自衛隊離島奪還部隊の水陸機動団が着上陸訓練を実施したのは、自衛隊施設のない鹿児島県徳之島だった。
島内の徳之島、天城、伊仙の3町から協力を得て自衛隊と米軍が島内各地で訓練を展開した。演習期間中、住民が日ごろはグラウンドゴルフを行う施設はヘリの着陸帯に、各地の体育館は自衛官らの宿営場所と化した。空き地には偽装を施したテントや通信アンテナが設置され、総合運動公園には自衛隊ヘリや車両が駐機していた。
徳之島での訓練からは、自衛隊施設がない島でも有事の際は部隊を展開できるよう備える狙いが浮かび上がる。米海兵隊が島しょ部に臨時の攻撃や補給拠点を設けて分散して戦う作戦構想「前方遠征基地作戦(EABO)」とも合致する。防衛省関係者は「有事には全ての島が対象になる。今後も訓練が可能な島はどんどん利用することになるだろう」と語った。地ならしがじわじわと進む。
徳之島では日米のオスプレイが共同で訓練したが、これも南西地域では初めての取り組みだった。徳之島での訓練は、日米連携の実績づくりにも位置付けられていた。
徳之島は民主党政権だった10年に米軍普天間飛行場の移設先として一時浮上した経緯がある。当時開かれた反対集会には、島民の約6割に当たる1万5千人(主催者発表)が参加。島内の徳之島、伊仙、天城3町がそろって反対していた。
一方、天城町では14年度に町や町議会、商工会などでつくる町自衛隊誘致協議会が発足。事務局を務める町企画財政課の福田光宏さん(36)は「沖縄でトラブルの多い米軍には抵抗感があるが、急患搬送や災害に対応してくれる自衛隊は印象がいい」と違いを説明した。他の2町も自衛隊誘致に前向きだ。
ただ、自衛隊と米軍は一体化を進めており、今や切り離すことができない存在となっている。実際、共同演習でも徳之島には米軍普天間飛行場の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが飛来した。政府は22年末に閣議決定した国家安全保障戦略など新たな安保関連3文書でも「日米防衛協力の強化」を掲げる。日米双方の施設の共同使用を増やすことも記載しており「自衛隊を招き入れたつもりが、米軍も付いてきた」という事態になる可能性もある。演習反対の集会につえを突いて参加した元徳之島町議の幸(こう)千恵子さん(65)は「自衛隊にも米軍にも少しずつ慣らされてきている」と危機感をあらわにした。
日米一体化による「防衛協力」は、南西諸島を中心に自衛隊施設がない島にも広がっている。 (明真南斗)
連載「自衛隊南西シフトを問う」
2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。