戦前の空気感と「似ている」 沖縄の90代元学徒「戦争加担」今も後悔 軍備増強に反対声明を出した理由<声明全文あり>


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(左から)「戦争が迫りくる感じがする」と話す瀬名波栄喜さん、「元学徒として黙っていられない」と話す宮城政三郎さん

 南西諸島で軍備強化が進む状況を戦前の空気感に重ね、「絶対に沖縄を戦場にしてはいけない」と危機感を訴えた「元全学徒の会」の声明。元学徒らは90歳を超え、病や体調不良の中でも「見過ごせない」と立ち上がった。陣地構築などに動員された自らを「加害者」と省み、流されるままに戦争に加担した状況を二度と繰り返してほしくないという反省を込めた。

 瀬名波栄喜さん(94)は戦前の県立農林学校時代、日本軍の中飛行場(現在の嘉手納飛行場)の陣地構築に動員された苦い経験がある。「われわれも加害者。戦争の準備をしてきたわけですよ」。皇民化教育に絡め取られ、疑うことなく戦争に突き進んだ。当時の空気感と今とが「非常に似ている」。声明には、日本政府が自ら戦争を引き起こそうとしているという危惧を盛り込んだ。

 12日、日本の反撃能力(敵基地攻撃能力)の効果的な運用などについて日米が合意したことを受け、声明に「日米安全保障条約の下で自衛隊と米軍の一体化が進んでいる」と追記した。敵基地攻撃能力について「大変ですよ、(ミサイルなど)打ったら本当に戦争をするということだ」と危機感をあらわにした。

 声明を出そうと発案した宮城政三郎さん(94)は「われわれは何のために生きてきたか、こんな時こそ伝えなければいけない」と憤る。貫いてきたのは憲法の堅持と隣国との平和外交だ。「米国に追従するばかりでなく、日本としての立場で隣国と友好親善し、対話で解決してほしい」との願いを声明に込めた。

 「台湾有事」や日米の軍事強化が日々報じられる中、元学徒らは沖縄戦の惨状を思い起こし、眠れないほどの苦悩を深めている。悲惨な沖縄戦の体験者だからこそ感じている恐怖は、声明の冒頭に記されている。元県立首里高等女学校の新元貞子さん(97)は、沖縄戦を体験した後輩の元学徒から「あの日のことがよみがえってきて、眠れない」と苦しみを聞いた。日米の軍事協力が日々伝えられる状況に「身の毛がよだつ。巻き添えは嫌だ」と訴えた。
 (中村万里子)


沖縄を戦場にすることに断固反対する声明 2023年1月12日

 今、ロシアによるウクライナ侵攻を背景に、沖縄を含む南西諸島で自衛隊の増強が進められる状況に、再び戦争が迫りくる恐怖と強い危機感を覚え、むごい沖縄戦を思い出す。

 78年前の沖縄戦では、米軍の上陸に備え、県民は子どもから大人まで、日本軍の飛行場設営や陣地構築に動員された。正義の戦争だと教え込まれ、知らないうちに戦争の加害者となり、戦争に加担させられた。日本政府は今、日米安全保障条約の下で「中国脅威論」を盾に軍備増強を進めている。自衛隊と米軍の一体化がさらに進む中、国民の緊迫の度を高め、自ら戦争を引き起こそうとしているような状況と戦前が重なる。軍拡ばかりが前面に押し出され、住民の被害に対する思いは微塵もない。

 沖縄戦で戦場にかり出された県内21校の旧師範学校・中等学校の男子学徒と女子学徒は、戦争がいかに残虐なものかを、身をもって体験した。死の迫る極限状況の中、生き残った元学徒も学友や家族、親しい人々を失い、心に深い悲しみを負った。全学徒の死者は約2千人。戦後は戦没学徒の慰霊を続け、二度と沖縄を戦場にしてはならないという思いで、教え込まれた皇民化教育の過ちと悲惨な戦争の実相を語り継いできた。

 戦争する国は美しい大義名分を掲げるが、戦争には悪しかない。爆弾で人間の命を奪うだけである。戦争は始まってしまったら手がつけられない。犠牲になるのは一般の人々だ。大勢の人の命が奪われ、双方の国に大きな被害を出す。戦争はしてはならない。命を何よりも大切にすること、平和が一番大切だという沖縄戦の教訓を守ってもらいたい。

 先の大戦では、若い学徒を含め310万人の日本人が犠牲になり、アジア全体での軍民の犠牲者は2千万人を超えるとされる。日本は侵略した国の人々を虐げ、収奪し、命を奪った。今、日本政府がすべきことは、侵略戦争への反省と教訓を踏まえ、非戦の日本国憲法を前面に、近隣の国々や地域と直接対話し、外交で平和を築く努力である。戦争を回避する方策をとることであり、いかに戦争するかの準備ではない。しかし、今の政府は戦争をするきっかけを見つけ出し、戦争にまい進しようとしていることが強く危惧される。

 戦前に戻るかのような政府の動きを元学徒として見過ごすことはできない。県民の間で第32軍司令部壕の保存・公開を訴え、「平和の砦」にしようという運動がある中、沖縄の陸上自衛隊第15旅団を師団に格上げし、沖縄本島や先島諸島の駐屯地司令部の地下化を計画することは、県民の平和志向に反するものである。元全学徒の会は、日本政府による沖縄へのミサイル配備をはじめとする自衛隊増強と軍事要塞化で、再び沖縄を戦場にすることに断固反対する。

 2022年1月 元全学徒の会

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